第2話後編
こんな風だから同僚が隠れているのかと疑ったのだが、確か先輩も四年前に一人で行ったと言っていた。
「古い配電盤・・・・」
それは本当に配電盤なのかさえ疑わしいものだった。写真で見たが、たくさんのダイヤルがあって、文字は消えているが、数字はかろうじて残っていた。そしてだ。この四年に一度しか空かない部屋のダイヤルが、何故か動かした形跡があるのだ。ダイヤルのゼロに毎回すべて合わせて帰るのだが、それが四年後には、必ずバラバラの方向に向いている。この配電盤のかぎは壊れていて、半開きの状態、だとしてもいったい誰がこんなことをするのだろう。いや、まずこの仕事を請け負った社長が、このダイヤルまで、どうして丁寧にゼロに合わせたりしたのかがわからない。それがすべての発端なのだ。
「この辺り落盤事故があったらしいな」
「ほら、有名な犬鳴村と同じように、特別な集落があったとか」
「あれ事実無根らしいじゃないか」
「ダイヤルの方向が何かのメッセージかも」
点検が近づくと、僕が怖がりなのを楽しむように、みんなが話していた。四年に一回の恐怖は、あまりに丁度良すぎるイベントなのだ。
「嫌だよ・・・怖いよ・・・でも・・・これやらないとこの会社で働けないのかも・・・・・」
電灯部分の埃を払いながら、ちょっとだけ空いた古い配電盤の方向に目を向けると、そこから何かが
「ポトリ」
と落ちたような気がした。
とても小さな何かだ。
僕は声も上げることができなかった。遠くから聞こえる、鳥の大きな鳴き声やトラックのクラクションが無ければ、狂ったようにここから走り出していたのかもしれない。
「何だ・・・小さな・・・小さな・・・」
僕は古い配電盤の方に向かった。その時の僕の勇気を後でみんな褒めてくれたが、それはどこか僕の記憶の中にあったからなのかもしれない。
とても小さな
「そのもの」
はほんの少しだけ動いているように見える。
僕は腰をかがめ、ゆっくりとそのものを眺めた。
「ネズミの子だ・・・」
小指の先ほどの大きさで、それにきちんと目も耳も可愛らしい手も長い尻尾もある。
するともう一つポトリとまた配電盤から落ちた。きっと兄弟なのだろう。
「じゃあさっきの音は」
とゆっくりと配電盤を開けると、細い枯草のフカフカしたベッドに、まだ数匹の子ネズミがいた。カヤネズミといやつだろうか、僕は夢中で彼らの写真を撮った。
「可愛いなあ! 」
実は小さい頃ハムスターを飼っていたことがある。丸い走るものの中で遊んでいる彼らを見るのが好きだった。とにかくハムスターも遊ぶのが大好きなのだとその時に気が付いた。だとしたら
「あ! ダイヤルに歯形がある! 」
つまりダイヤルは、彼らの丁度良い遊び道具であったということだ。
子供のネズミも大人のネズミも混じって
「僕はこれ」
「私はこっち」
「これ硬い、動かないよ」
「大丈夫だよ、回るって」
そんな会話がずっと世代を超えて続いてきたのだろう。実際さびて固まってしまったところを何とかしようと、歯形が深くついていた。
「ハハハハハ」
何度も写真を撮り、ダイヤルの歯形部分をマクロ撮影して、そっと扉を閉めた。長くいると親ネズミが帰って来なくなるかもと考えたのだ。
そうして完全無事に僕は職場へと戻った。
「ネズミだったか・・・」
「でも・・・・・」
納得しない人もいたが、何故か記念に僕の撮った写真が職場に飾ってある。
「ネズミ年だから丁度いい記念だ、次は私が行こう」
と社長は言っているが、この事に関しては強烈な立候補をしようと、僕は虎視眈々と狙っている。
小恐怖 回ったダイヤル @nakamichiko
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