[3]
病室に小さな笑い声がこもった。慌てて口に手を当てる。しかし、口角がどうしても下がらない。浸っていると、思わず顔に微かに触れる自分の指を舐めそうになった。こんな姿他の人が見たら、事故でどこかのネジが抜けてしまったのかと思うだろう。心臓の周りがムカムカする程、心底気持ちが悪い。けれど、
気持ち良くて仕方がない。
私が、今浸っているのは、「快感」。
生まれて初めてと言っても過言ではない程の幸福感、充実感、恍惚感、満足感。
車が私に当たった瞬間をはっきりと覚えている。当たった勢いで全身の骨だけが外に出てしまったのではないかと、毛穴という毛穴から黒い液体がじんわりと染みでた。だけど、その筋肉と骨が剥がれるような感覚がたまらなかった。思い出すと、今にも筋肉がとろけてしまいそうだ。当たった部分からビリビリと強烈な刺激が駆け抜け、崩れ落ちた。腰が抜けてしまったかのように動けず、私はもう死ぬのか、これが死なのかと心臓の鼓動がどんどんどんどん早くなった。息も荒くなり、口呼吸しか出来ない。脳みそが回らず、黒目がギョロギョロとカメレオンのように動いて止まらなかった。病室で目覚めた時とは訳が違う。指先が震え、全身が痙攣しはじめ、ヨダレが泡となり吹き出て、滴った。これは、「死」への恐怖からなのか、「生」への異常なまでの高鳴りからなのか。ただ、地面に這いつくばり、緊張感、恐怖、絶望の合間に私は「生」を自覚した。死へ近ずけば近ずくほど、「今生きているんだ」「生きようとしているんだ」「全ての私の生命が、今生きる為だけに動いているんだ」と。それが堪らなく堪らなく興奮した。目が意識とは逆らい閉じ始め、体の力が抜けてきた。口角が引き攣ったまま…。ここからは記憶が無い。
たった数秒。生を感じれる極上の快楽。生きている事の証。つまらなくて、くだらなくて…なんだったっけ…モウモドレナイ。元々どこにいたのかとか、私が誰だとか、どうだっていいよね。気持ち良くてキモチヨクテたまらなかった。あの感覚をもう一度…。私が死んでしまう前に。
‖貴方は今、「生」より魅了されるモノがありますか?‖
「コンコンッ」
一瞬にして、病室の外で私を呼ぶ音に気をとられた。私は目が覚めてから初めて声にした。
‖はい。‖
少女 あい @ai16wosiranai
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