本編
2話 新宿、だるま少女との邂逅。
さて、ガッタンゴットンと、人間でぎゅうぎゅうになった電車に揺られ、新宿駅に着いた。辺りを見渡せば人人人。人の海。ホームのど真ん中で少々呆けていた私を避けながら、人はドンドン奥へと流れて行った。
どうやら私は、もの凄い人の量に少々酔ってしまったらしい。
人の流れが収まって、ようやく歩けるようになった。私はあまり人混みが好きではない。
改札を出て、待ち合わせ場所である階段下の周りをぐるっと一周してから、ポケットから灰色の生地に黒いラインが引かれた、ヨレヨレのスマホケースを取り出し、パカっと開ける。それから、私は慣れた手付きでスマホのマップアプリを立ち上げた。
アプリが起動すると、自分の現在位置が青い点でマークされており、ポワーンポワーンと一定の時間でオーラを発し始めた。
…………しかし新宿駅はデカイな。
ビルやらなんやら周りがごちゃごちゃしていてよくわからないが、駅自体がやたら大きいことははっきりと理解できる。ついでに写真でも撮っておくか。パシャっと。
諸君。ここが新宿駅である。
私が少しでも画面から目を離せば、サンタのコスチュームをした客引きが、ビラやポケットティッシュを配っていたり、どの建物も植木も、至るところにイルミネーションが
……騒がしい。
少々の沈黙を経て、ようやっと私の指は検索対象の「ブックオフ」を入力し始める。
すると、候補が赤いマークで4つほど出てきた。
ふむ。二つは遠すぎるな。
残り候補は二つ。今いる位置からすると、片方は駅を
クリスマスフェアとかやってるかな?
テクテクと歩み始める私。
すれ違う人がドンッドンッと私の肩に当たってくれるので、なかなかテクテクとは行かず、テクテットトトテテテと
私は人の流れに逆らっているのだと途中で気がついたが、次の瞬間、若いカップルの男の方に肩を強くぶつけられて、この逆流からは決して離れまいと固く誓った。
肩に入れる力を
ズンズンズン…………ズンズン…………ズ……。
……どこだここは。
全くわけのわからない所へ着いてしまった。店への方向が全く分からなくなってしまった。
すぐさま、私はポケットのスマホを取り出し現在位置確認を…………アレ?
ポケットを慌ててまさぐる。
カサコソ、バンッバンッ…………。
ーー無いっ!?
私のポケットからはついさっきまで存在していた筈のスマートフォンが消え去っていた。
…………スられた。
馬鹿な奴め。財布だと思って勘違いしたな? きっと
あんなヨレヨレのケースに入ったスマホなんて誰が欲しいと言うのだ。
しかし、初っ端から最悪な事態に
すぐさま警察へと思ったが、ここが何処だか全くわからない。
あたりを見渡せば、わけのわからない言語を話す外国人と、ハートを飛ばし合う日本人カップルのみがやたら目に映った。
これは話しかけられない。
というか此処にいたくない。
すぐ目の前に細い裏路地があったので、そこで束の間の休息をとることにした。
はぁはぁ…………疲れた。もう疲れた。2分でこんなに疲れるなんて。
私は両膝の皿を手で押さえて、ぐったりと息をついた。
ーー最悪である。今日は最悪な日である。
しばらく上の言葉を脳内で繰り返していると、ガタッっと前方で音がしたので、ビクッとしながら頭を上げた。
ーーそこにはだるまの少女が水色のゴミ箱の蓋を掲げ、こちらを見つめながら突っ立っていた。
「あなたは誰ですか」
ーーそこにはだるまの少女が水色のゴミ箱の
「あなたは誰ですか」
話しかけられた。
「あなたは誰ですか」
それは私が問いたい。
「…………」
あまりの衝撃に思わず沈黙してしまったが、ソレはまさに『だるま少女』としか表現できない見た目であった。
正月によく見る
…………とどのつまり、赤い達磨の着ぐるみ(?)を着た幼い少女であった。ちなみに手にはそこら辺にあるような青いバケツの蓋を持っていた。
さっきから急なイベントが連続して起こっているためか、頭が少しも機能していない気がする。
とにかく情報量が多すぎる。うん。
ーー少女と私はしばらく見つめあった。
両者、互いに額からツーと、ひとすじの汗をかく。
「「…………」」
やっとのこと、口を開いたのは私である。
「私は……大学生だ」
割とどうでもいい情報を口に出してしまった。
「……だい、だいがく……せい」
「……そうだ」
「あっ、はーん……」
どうやら
「う、うむ……それで、君は?」
私に問われた少女は、
「うーんと……わたしは……神さま、ですか?」
そんなものは知らない。こちらが尋ねたのだから、聞かないでほしい。
「……うん。わたしは神さまだ」
神さまなのか。
「…………君は迷子なのか?」
「ううん、神さま」
「なぜ
「まよった」
「ゴミ箱の蓋を持っているのは?」
「……なんか、身を守れそうだなとおもった」
「そのだるまの格好はなんだ」
「…………これだるまって言うの?」
「ではさようなら」
「ま、まって」
これ以上どこに議論の余地があろうか。
君がもし神さまなのだとしたら、私が居なくともやっていけるのだろうし、そうでなくても、
チラッと少女と目があった。
少女は
「…………家は?」
「しらない。じつは自分のなまえもしらない。きおくが無いらしい」
「本当か」
「ほんとう」
「その格好も?」
「これはなんか……むかし着てた気がするので」
「親が着せたのか?」
だとしたら相当やばい親であるが。
「わからない。おもいだせない」
「本当に何も覚えていないのか?」
「うーん……おっちゃん?」
「私はおっちゃんではない」
「ちがくて、おっちゃんを覚えてる」
……なんと反応すればいいのか。このまま帰るか。
「とりあえず、警察に行こうか」
「じゃあ連れてって」
「…………」
…………そういえば私も迷っていたんだった。
ーーさて、こういう時はどうするべきか、このままここでじっとしていてもキリがないが、かと言って適当にフラフラと歩いて行ってしまえば、この区域から遠のいてしまう可能性がある。それはいけない。少女の親も困ることであろう。
私は少女から背を向け、少し
「……では参ろうか、君」
「どこに」
「…………」
どうやら今の私のIQは
「どこに」
「……どこか、適当に行くのだ」
「…………まいご?」
「つまり……そういうことだ」
こうしてだるま少女と私の新宿冒険(
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