第十二話 続・昔語り
『教団』は本当に新人類が生まれると信じていたみたいだけどね。
確か『血液に魔力を流し込んで隷属させ、強い意思を持って生きるに値する者だけが新人類として生まれ変わる』だったかな。
まるっきり吸血鬼だよね、これ。
それの大本なんだから、いつしか君は吸血鬼に見立てられて、始祖吸血鬼と呼ばれることもあったというだけの話さ。
でも、当時の人はバカバカしくとも新人類のことを信じていたんだろう。
だからこそリオンが生まれたわけだからね。
肝心の疑似人格として行動するリオンは百年単位で生きながら、ちょくちょく人を殺してたね。
さぁ? 暇だったんじゃない?
僕とロキが出会ったのもこの頃かな。
まあ別に敵対も和解もしないし、お互いに同じ被験体がいるんだぐらいだったけど。
それで、疑似人格のリオンは数を増やした人間に辟易したのか、いつしか研究所の上に魔王城を建てたのさ。
え? 知らないよ。
自分で建てたんじゃないの? 僕だってずっと君を監視してたわけじゃない。
補足として言っておくと、当時の研究所は風魔術で保存してたんだ。真空状態を保っていてね。
それが【空間魔術】に取って代わるのは、まだまだ先のことさ。
で、えーと。
リオンが魔王として君臨し、数百年と討伐されなかった。
誰も勝てなかったんだね。
人間達は文明を発展させながら、何度も【勇者】パーティを送り込んだらしいけど、みんな殺されたって。
そんな中、僕も気まぐれに参加してみることにしたのさ。
本当に気まぐれだよ。
数百年も生きて、それから更に生き続けることが確定しているんだ。
たまには刺激が欲しくなるってだけだよ。
でも……そこでフィルに出会った。【聖女】と呼ばれるに相応しい回復力を誇り、神聖な魔力を持っていたんだ。
僕は彼女の魔力を脅威とすら感じたよ。だって闇の眷属だからね。
そういえば闇の眷属ってなんなんだって話はしたっけ?
してない?
じゃあ言うけど、闇の眷属っていうのは被験体の人間を指すのさ。
命名はフィル。光に弱いから闇なんだって。
由来はロキも初めて聞いたかな。
僕が使い出したのを、彼女も使っているだけなんだけどね。
そもそも被験体だった人間のほとんどは肉体が崩壊したのさ。
わずかに生き残った者も、永い時間を生きるのに耐えられなくて自死を選んだ。
もう世界には僕とリオンとロキの三人しか残っていない。
吸血鬼は、まあリオンの血族みたいなものだからね。
疑似人格のリオンか、それともロキが広めたのか。
吸血鬼も人間には闇の眷属と呼ばれているけど、厳密な意味では違うよ。
魔族っていうのも適当に名乗っているだけさ。
魔術が得意なだけなんだけど、それっぽいだろう?
鬼人族なんてのもいるけど、あれはただの魔力を持てなかった人間の、一つの姿さ。
魔術を捨て、肉体のみを頼りにする一族。内部的には人間と変わらないよ。
なんでそもそも闇の眷属は【光属性】に弱いかって?
【闇属性】の魔力を用いた研究から生み出されたからだよ。簡単だろ?
魂や死体を弄るんだ。
【闇属性】以外のなにものでもないよ。
そして僕達の弱点である【光属性】持ちの中で、特別強い魔力を持っていたのがフィルだった。
だからこそ【聖女】として祀り上げられたんだけどね。
彼女の魔力は最高峰だったよ。
それこそ塵すら残さず浄化されるような……。
贔屓がすぎる? 真面目に語れ?
ひどいなぁ。これでも事実を述べているつもりだよ。
いや、話を戻そう。
それで【勇者】ハリードと【戦士】ウォーガスの二人と共に、四人で魔王討伐に繰り出したんだ。
僕は控えめに後方支援をしてたんだけど、手を抜いてるでしょってフィルに見抜かれてね。
不思議な女性だった。
優しくて、でも言うことはハッキリ言う。
だけど全然嫌な気持ちにならないというか、よくぞ言ってくれた! という気持ちに……わかったわかった。
露骨なフィル推しはやめておくよ。だからその冷ややかな目はやめてくれ。
とにかく。
フィルと出会ってから変わったんだ。
僕はこの身体にされてから初めて人間の平穏を感じたし、彼女に恋を覚えた。
魔王討伐を無事に終えたら、二人で暮らそうと約束までした。
だけど、結果はあの通り。
君は思い出しているだろう?
そう。四人がかりで惨敗だ。
僕だけ気絶せずに、なんとか魔王の気まぐれか何かで生き延びたんだ。
その後がもう大変でね。
魔王の言う通り、討伐したと王国に報告したら「魔獣が消えていない。本当は逃げ帰ってきたんだろう」と責められたんだ。
当時は魔王が魔獣を生み出していると信じられていたからね。
だけど僕は魔王から聞いた通り、魔獣を生み出している原因は魔王じゃないことを説明したんだ。そしたら渋々受け入れられて、なんだかんだと英雄だと祀り上げられた。
でもそのパレードの中、不穏な空気を察知した僕はフィルを連れて逃げ出した。
するとどうだい。
追手が現れて、僕達を殺そうと大人数で迫るじゃないか。
僕は人間相手に本気を出してしまった。
何十人、いや百人単位で殺して逃げたよ。
結果、僕とフィルはお尋ね者になったんだ。
僕が人間に愛想を尽かしたのは、これが原因だよ。
英雄だと祀り上げておいて戦いに送り出し、気に入らなければ掌を返して世界中から狙われる。
なんてくだらないんだ、とね。
ああ、それと後日。
【勇者】と【戦士】が酒に溺れて死んだと噂になっていたよ。
でも決してそんなことはない。
【勇者】は下戸で、【戦士】はザルだったからね。
酒に溺れる可能性はなかった。
つまり、国によって殺されたんだよ。謀殺、ってやつだろうね。
それで僕もフィルもヒノハ村へ逃げることにしたんだ。
え?
ならどうして魔王討伐の英雄として歴史に残っているのかって?
さぁ。王国のメンツを保つ為じゃないかな。
とにかく魔王が倒され、それを為したのが王国出身の若者だと喧伝したかったんだろう。
【勇者】は王国出身だったからね。
それから僕達はヒノハ村に移住したんだ。
そう、フィルの故郷だ。
そこの人達は優しく受け入れてくれたけど、ある日、寝込みを襲われたんだよ。
村の何人かは僕達が賞金首だとわかっているらしかった。
フィルの首にナイフを突きつけ、僕に大人しく殺されるよう脅してきたよ。
だから僕は殺してやった。
完膚なきまでに。ゴミのようにね。
それをフィルが止めてくれたんだ。
怒りに任せて、人を殺めないでって。
ははっ、安っぽいと罵ってもらっても構わないよ。
でもそんな彼女の言葉で目が覚めた僕は、近郊の森に居を構えた。
ヒノハ村にいたならず者は殺したし。
フィルにも僕にも、本当に優しかった人だけが残っている村を守るつもりでね。結界を張ったのもこの頃だったな。
フィルも付いて来てくれた。
この領域を完成させた時、当時はもう人間で言う中年に差し掛かっていたけど、そんなことどうでも良かった。変化していく外見も含めて彼女が好きだったから。
だけど。
数十年経てば、彼女はあっけなく死んだ。
当たり前だよ。
寿命さ。
【聖女】だと祀り上げられた彼女も、所詮はただの人間だったんだ。
彼女が老齢になってからよく言っていたセリフがあってね。
僕は未だに覚えているよ。
「私が死んでも、絶望してはダメ。貴方は貴方らしく生きてね」
ってね。
いやぁ。お笑いだろう?
ご明察の通り、彼女が死んで僕は絶望した。
彼女がいない世界なんて死んだ方がマシだ、とね。
だが、そこで《リィンカーネイション》のことを思い出した。
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