第四話 検証・レベルアップ

「ふぅ。こんなものか」


リオンはそこら中に横たわる魔獣――狼のような生き物の死体を眺めながら呟いた。


体力的な息切れはしていないが、戦い続けるのは精神的に疲れる。

まだまだ刃を振るう感覚と、純粋な敵意を向けられる感覚に慣れていないのだ。


下級魔獣如きではかすり傷すら負わない身体だが、早く戦いに慣れるように攻撃を出来るだけ避けるという自己目標を掲げていた為、神経を張り詰める必要があった。


身体を木の幹に預け、刀を見下ろした。武器を振るう感覚が馴染んできたのを感じている。


安堵と同時に、再度狼型の魔獣が向かってきた。

リオンは舌打ちしながら飛び掛かってくるそれを一撃で斬り捨てる。

抜刀にも慣れたもので、今では一瞬で出来るようになっていた。


刀の持ち方だが、色んな構えを試したものの、片手でぶらりと提げるのが一番しっくり来た。


この身体は吸血鬼の王であって、侍ではない。西洋の剣と同じように刀を振るっていた恐れもある。実際の使い方は全然違うのだが。


ただこの刀が見た目に違わず業物で、思い切って岩にぶつけてみても一切歪むことがなかった。


それどころか軽い力で真っ直ぐ振り下ろすと、人間大の岩ですらバターのように斬ってしまう。間違いなく名刀の類であった。


剣技についても魔獣を捌いている内に思い出してきた。

リオンはこれをレベルアップと呼ぶことにした。恐らくだが一回死んでしまったことで、クラインが言うようにこの身体は力を失ってしまったのだろう。

わかりやすく言えば転生直後の状態は『吸血鬼の王 レベル1』だったのだ。

故に魔獣を狩ってレベルが上がると、色々と思い出していく。そう捉えることにした。


再度、魔獣が来襲する。今度は三体が森を駆け抜けて来た。

リオンは意識だけをそちらに向け、


『ファイアボール、ウィンドソード、ライトニングスピア』


念じるだけで立て続けに魔術を放つ。

それぞれの魔獣が魔術の直撃を受け、

一体は火に焼かれ、一体は風に切り裂かれ、一体は電撃に貫かれた。


魔術についてだが、これも剣技と同様で思い出してきた。

しかし属性がバラバラで、どれも下級のものばかり。やはりレベルが足りないのだろう。

同時に属性についても思い出したことがあって、【下級属性】は六つ。


【火】→【氷】→【風】→【地】→【雷】→【水】だ。


これらにも相性があり、それが上記の矢印だ。

【火は氷に強い】といった感じに。それ以外には特に干渉しない様子だ。

くわえて【上級属性】の【光】と【闇】。

当然ながら【光】と【闇】はお互いに相反関係である。


更に上に【時間】と【空間】という属性があるらしいが、それは世界を構成している要素とされているだけで、存在が確認されていない【架空属性】とのことだ。今のところ、これらの属性を魔術として発現させた者はいない。


ちなみに本来なら下級魔術ですら、短くとも呪文の詠唱が必要になる。

無詠唱は詠唱を破棄し、そこを魔力で補う上級魔術師が用いる技術だ。

そのため無詠唱で魔術を連発出来るのは、リオンに眠る無尽蔵に近い魔力量のおかげだ。


森の奥から、木と同じくらいの背丈の魔獣が姿を現す。その姿はまさしく熊だった。

あまりにも魔獣を倒しすぎた為か、それともただの散歩ルートだったのか。

熊型魔獣はリオンを認識すると四足で急接近して来た。口を開け、リオンを噛み砕かんと唾を飛ばしている。


そこへリオンは魔力を込めて視線を向けた。

すると熊は急ブレーキをかけて足を止めたと思うと、すぐさま振り返って逃げ出した。


【魔眼】。

リオンが持つ固有スキルと呼ばれる技だった。

今の魔眼が与えたのは【恐怖】。

対象に恐怖心を与え、リオンから逃げ帰らせる魔眼だ。魔術に比べて簡単だし、なにより疲れない。

このような雑魚ばかりが出てくるような森の中を歩く時には一番役に立つスキルだと思えた。


再度、リオンは熊へと目線を向ける。

逃げ出した熊は動きを止め、その場で痙攣しているように微振動し始めた。

動かないのではない。動けないのだ。


もう一つの魔眼は【麻痺】だ。

身体を痺れさせ、敵を動けなくさせる。これも視線一つで可能なものとしては破格の技である。

ただし検証出来ていないのは。


・これらの魔眼は人間相手にも使えるのか。

・どれだけの魔獣に効果があるのか。

・対魔術のような力で防げるのか。


など、だ。


現状では歯牙にもかけない下級魔獣だからこそ効果があるのではないか、とリオンは考えていた。

あくまでリオンと敵の彼我戦力差が圧倒的に離れている時にのみ使用できる限定技、という可能性だ。そうでなくてはこの魔眼一つで世界を取れてしまう。それだけの強さを持っているのだから。

ただし、魔眼にはそれ以外に発生条件もある。


動けない熊を見て、リオンは魔術を行使する。

同時に自由を取り戻した熊が動き出し、戦意を思い出したのかこちらへ身体を向け直した。


『アイスニードル、アースハンマー、アクアカッター』


リオンへ向けて駆け出す熊。

そこへ氷の針が降り注いで動きを止められ、岩の大鎚に打ち上げられ、水の円盤に両断された。


魔眼の条件は現状では以下の通りが判明している。


・魔眼の効果は一つずつであり、重複はしない。

・リオンが対象から視線を外す、魔眼以外に魔力を消費する、

 などの別に集中力を使う行動で効果が切れる。


魔眼を使う時は、魔眼以外の行動にかなり制限がかかってしまうのだ。

とはいえ強力なスキルであることに違いはない。


この程度か、と改めて自分の手持ちカードを確認し、リオンは村へと戻ることにした。

魔獣の死体を放置することになるが、どう処分したものかわからないのだ。


そういやレナの家で食べた料理、肉入ってたな。

もしかして、と狼達を見やる。


普通の動物は見かけなかった。普通なら森にいるであろう兎や鹿なんかだ。

吸血鬼の王であるこの身体が持つ感覚能力は非常に鋭敏だ。

そのような動物がいたら見逃すはずもない。


となると。


リオンは一つの仮説を立て、狼を数匹持っていくことにした。

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