漫才「台本通りの漫才」
いありきうらか
漫才
ツッコミ「○○と○○で、○○ですーよろしくお願いしますー」
ボケ「…一人残らず、腹抱えるほど笑わせます」
ツッコミ「絶対言っちゃだめだろそれ」
ボケ「なんでだよ、そういう気持ちでやらなきゃダメだろ」
ツッコミ「いやそうだけど、ハードルが上がっちゃうから」
ボケ「その高くしたハードル上げるのが、芸人ってもんだろ?」
ツッコミ「格好いいな、でも抑えておいた方がいいよ」
ボケ「お客さんの笑顔見るために芸人になったんだからこっちは」
ツッコミ「どんどんやりづらくしていくな」
ボケ「抱腹絶倒のギャグ、やらせてくれよ」
ツッコミ「ダメダメ」
ボケ「なんでだよ」
ツッコミ「ウケるわけないじゃん、こんな色々言った後で、ダメだよダメ」
ボケ「おお、そうか、じゃあやめるわ」
ツッコミ「…いや、やれよ」
ボケ「は?」
ツッコミ「冒頭の熱い思いの割に引き下がるの早いんだよ」
ボケ「どっちなんだよ、ダメ、って言ったり、やれって言ったり、絶対ウケるからやらせてくれよ」
ツッコミ「だからダメだよ」
ボケ「いや、どっちなんだよ」
ツッコミ「ギャグやる前に面白いことやります、って言うのがダメなんだって」
ボケ「なんでだよ、テレビでも爆笑トークって、面白いこと煽ってやっているだろ」
ツッコミ「あれも本来ダメなんだよ、大体今から面白いこと言います、やります、って言って面白いことやるのおかしいだろ」
ボケ「なんでだよ、面白いんだから今から面白いことやりますでいいだろ」
ツッコミ「その自信が人を笑いにくくさせるんだよ」
ボケ「じゃああれだな、今からつまらないことやるので、皆さん見てください」
ツッコミ「ダメだよ」
ボケ「は?」
ツッコミ「今からつまらないことするんだなーってお客さんが見ちゃうだろ」
ボケ「いやいや、面白いんだから大丈夫だろ」
ツッコミ「ダメだよ、どんなに面白くてもその先入観は超えられないよ」
ボケ「じゃあどうすればいいんだよ」
ツッコミ「普通の顔で、ボケてませんよ、何も間違っていませんけど僕、みたいな感じでボケるんだよ」
ボケ「は?台本でボケることになってるんだからおかしいだろ」
ツッコミ「台本とか言うな」
ボケ「練習もいっぱいしたろ、さっきも何回も合わせたし」
ツッコミ「練習とかも言うな」
ボケ「なんでだよ、本当のことだろ」
ツッコミ「台本とか練習とか言ったらダメなんだよ、冷めるんだよ」
ボケ「お客さんだって知っているだろ、台本あって練習して漫才しているって」
ツッコミ「ダメだよ、あくまでマイクの前まで来たら即興で会話が始まりました、っていう感じで話さないとダメなんだよ」
ボケ「いや、それは無理だよ、何百回も練習したんだから」
ツッコミ「だから言うなって」
ボケ「だってそうだろ、今の流れだって何回も練習したろ」
ツッコミ「それは本当に言っちゃダメだわ、漫才を客観的に捉えた話に対してこれも台本なんだ、って言うのは本当にダメだよ」
ボケ「もうわかんねえよ…、あ、お客さんこれも台本通りですよ、本当はわかっていますので」
ツッコミ「やめろやめろやめろやめろ」
ボケ「これも台本です」
ツッコミ「やめろって」
ボケ「やめろを4回、台本ときっちり同じです」
ツッコミ「恥ずかしいよ、やめてくれよ本当に」
ボケ「これも台本です」
ツッコミ「キリがないわ!全部台本言い出したら!」
ボケ「しょうがないだろ、そうなんだから、あ、お客さん、実は僕抱腹絶倒のギャグもないんですよ、やらないことわかっていたから」
ツッコミ「マジでやめてくれ…」
ボケ「このネタ書いたの僕ですからね、ツッコミのセリフも一語一句考えています」
ツッコミ「いい加減にしろ!!」
ボケ「…あれ、これは台本にないなあ」
ツッコミ「ウンザリだよ、俺もっとちゃんとした漫才やりたいよ」
ボケ「…」
ツッコミ「こんな漫才を馬鹿にしたような漫才、本当は俺やりたくないよ」
ボケ「…」
ツッコミ「もっとお互いのこと曝け出すようなしゃべくり漫才がやりたいんだよ、だからお前とコンビ組んだんだよ」
ボケ「…」
ツッコミ「こんな漫才やめようよ、他人と差別化するためだからってこんな漫才、台本、ダメだよ」
ボケ「…確かにそうかもな」
ツッコミ「…」
ボケ「…俺が悪かったよ、売れたい売れたい、って思い過ぎていたわ、どうにか新しいもの作らないと、って焦っていたんだな」
ツッコミ「…」
ボケ「また、ネタ考えるよ、二人の個性がちゃんと発揮されているようなネタ、考える、だから、ちょっと待ってくれ」
ツッコミ「わかってくれたなら嬉しいわ、ありがとう」
ボケ「……お客さん、これ、台本だと思っているでしょ?…これね…本当に台本じゃないんですよ」
ツッコミ「台本通りだよ!!いい加減にしろ!!」
二人「どうもありがとうございました」
漫才「台本通りの漫才」 いありきうらか @iarikiuraka
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