第8話 救国の隊長たち 下

『負け戦ほど痛ましいことはないが、勝ち戦もまた同様に悲惨である。』​─────── アーサー・ウェルズリー




 ─1918年 4月2日 フランブル地方 『臨時救援軍』近衛第1師団陣地



 昼ごろ、近衛第1師団がまたしてもコニラードに向けて攻撃を開始した。殷々と響く野砲たちからは榴弾が飛び出している。コニラードに籠る人民帝国軍兵たちは懸命に防御し、崩れそうな壁を何度も修復していた。

 双眼鏡を覗くミコにはどうやら強襲攻撃は失敗しつつあるように見えた。


 カンブルグでは大隊1個と1個小隊が守っただけで1個師団以上の出血を与えたのだ。コニラードには大量の人民帝国の兵士が入っている。

 陣地の拡張工事を行いつつも人民帝国は手痛い反撃を与えていた。時には陣地から飛び出して銃剣を煌めかせて戦う場面も見られた。


 冷や汗をかきつつもミコは自分の任務を遂行しようとしている。ミコの任務は深夜に行う。昼ごろの今、戦場に出向いているのは偵察と、いくらか兵站を荒らしてやろうと考えていたのだ。


「よし、私たちもそろそろいこう。」

 後方に合図を出し、ミコは塹壕から飛び出て箒に乗った。

 10騎に満たない騎兵たちが一旦西に向かって走り出した。頃合を見て北上を開始する。ミコはその先頭でやや高度を取りつつ箒の上から偵察していた。


 右側にコニラードを攻める近衛師団を見つつもミコはお目当てのものを見つけ、降下する。


「ぐえっ」

 背中に掛けたライフルが腰のあたりを叩いたのだ。支給品のボルトアクションライフルは女のミコにはやや重く扱いづらく不満だった。


 体をさすりつつもミコは見上げる。木造のボロボロの廃屋があった。以前は立派なものだったのかもしれない屋敷だが、塗装は剥がれて柱はシロアリに食われている様子が伺えた。今にも崩れそうだ。


「こいつがレックス少佐の言ってたやつか…。曹長、敵はいないな?」

 ミコに追いついた曹長が馬から降りて並んだ。

「ええ、確認させましたが周りにはいません。」

 よしよし、といった表情をしてから、ミコは作業の指揮に取り掛かった。

 ミコが計画している深夜の強襲のために、ここの廃屋を燃やす準備をする必要があった。


 一通りの作業を終えた後、付近の廃屋たちにも似たような作業を行って、騎兵たちはさらに北上した。

 道中で様々な地形情報や兵の情報を手に入れた後、ミコは不思議なものを見つけた。

 地図にはない、線路があったのだ。恐らく人民帝国が戦争を仕掛ける以前から準備していたものだろう。

 ミコは意地の悪い笑顔をして、その線路を爆破させた。

 騎兵の役割とは、情報収集や後方撹乱であり、戦時でのこの程度の行動は火事になったら消防が出るのと同じようなものだ。


 しかし、後になってこの行動が人民帝国軍に影響を与えることとなる。




 ​─1918年 4月2日 アイントテフ 大マウロ人民帝国軍 第1軍総司令部


 ナルヴィンスク連邦侵攻の軍司令官を任されたマックス・シャーザー将軍は、地図の広げられた机の前で悩んでいた。

 どうなっている。どうしてあの程度の陣地を攻略出来なかったのか。そう考えていた。


 人民帝国軍では軍の一派閥のクーデターによって都合の悪い派閥への粛清が行われた。

 若き皇帝は上層部を自身の属した派閥の軍人を、現場では政治将校を配置することで、軍というものをコントロールしようとした。


 このシャーザー将軍も、本来であれば旅団参謀長が精一杯の人間ではあるが、若き皇帝の派閥に属していたために立派な職に着いていた。


 シャーザー将軍は背後に気配を感じた。

「なんだ。要件を言え。」

 訪れた人は軍参謀長だった。

「失礼します。参謀が誰も入りたがらないので私が来ました…。」


 事実、この司令部ではシャーザー将軍の機嫌を損ねればどうなるか分からない。将軍がただでさえ悩んでいるこの場合も、相手が参謀長でなければ殴り倒していたかもしれない。

 中央集権体制の政治は、不思議と軍人の振る舞いも中央集権的になり、軍司令官はまるで皇帝のように振舞っていた。


「​──連邦の騎兵数百騎が本国に向けて進撃中…だと?」

 シャーザー将軍は渡された紙を見て呟いた。

 既に能力以上の事象を対応している彼の脳は既に熱暴走仕掛けていた。そこに騎兵への対応が迫られている。


 もちろんこの数字は正確ではない。連邦の西部方面軍に攻勢をかけた人民帝国軍は工夫を凝らした拠点群によって手痛い出血を強いられてきた。

 いくつもの軍団をぶつけてもなかなか攻略出来なかったことから、司令部の一部や現場レベルでは西部方面軍左翼の兵数を過大に見積もっていた。


 その精神的なバイアスが掛かった状態で、ミコたちを見つけてしまったのだ。

 その報告は上に伝わるにつれ兵数が増加し、数百騎にまで増えた。


 だが数百騎程度の騎兵が、後方に侵入するのはシャーザー将軍程度でも対応の仕方は分かっていた。彼の脳はまだ正常な判断をしていた。


 結局、予備軍のうちからいくらかの部隊を対応のために下げることにした。だが、攻めているのはこちらなのに、逆に仕掛けをされることにシャーザー将軍は悪寒を覚えてしまった。




 ​─1918年 4月2日 フランブル地方 コニラード人民帝国軍陣地


 夜の闇が辺りを包んだ。

 コニラードを占領した人民帝国軍の指揮官は、その警戒を緩めていなかった。連邦の軍が奪回を諦めていないことは承知している。

 陣地の拡張工事は3交代で中断せず続行していた。

「この調子なら明日には砲座がいくつか完成するな。まあ連邦のゴミ共がちまちま攻撃を仕掛けてこなければ作業はもっと進展するんだが…」


 コニラードの守備を任された連隊長は鼻をほじりながら自信たっぷりの様子だ。

 コニラードの前には草原を血に染めて倒れた国防軍の兵の死体が、いくつも転がっている。

 撤退の際に、戦友が負傷者を引きずって回収したのだろうが、戦死者までは回収する余力はなかったようだ。

 そこで遺体は陣地の前に放置されている。

 さすがに見苦しく感じた連隊長も、部下に命じて穴を掘って埋めさせようとしたが、連邦国防軍から次々に仕掛けられる逆襲攻勢の対応のためにその作業は途中から放置されていた。


「酷い臭いだ。これが夏だったら耐え難い臭気だっただろうになあ…」

 爵位を持つこの肩幅の広い連隊長は、自己中心的に物事を考える性格らしい。

 その時だった。

 鼻腔が死臭ではなく、木の燃える臭いを嗅ぎ当てた。


「なんだねこの臭いは?どこかで木を燃やしているのか?」

 すると部下のひとりが、連隊長に報告した。

「どうやら連邦の騎兵が、近くの廃屋に火を放ったようです。」

「はっなんとまあ無駄な事をする連中だ。吾輩があのような廃屋にまで、兵を配していると思ったのか、ははは。実に愚かだ。」


 原因が単なる放火だと分かると、連隊長の関心は別のことに移っていた。

 しかし廃屋の火事は予想以上に多くの煙を吐き出していた。

 そして一陣の風が凪ぐと、煙は拡散せずにむしろコニラード周辺に重たく溜まっていった。

 しかもその煙は、周囲の視界を妨げるほどに、濃く広がっていった。

 視野を隠すような低く漂う煙は、国防軍が攻撃してくる前面ではなく、むしろ背後の方に広がっていった。


 これが陣地の前面で広がれば、将兵も「おかしいな」と感じただろう。

 だがこのぼったりした濃い煙は風向きもあってか、陣地の正面にはほとんど漂ってはいなかった。

 それ故に見張りの兵士の多くは、この一帯を覆い尽くすように広がる煙には、連隊長と同様なんらの警戒心も持たなかった。

 それこそが、ミコの狙いだった。


 ​─1918年 4月2日 深夜 フランブル地方 コニラード人民帝国軍陣地 付近


 ミコたちは全身をオリーブ色の布で覆い、また木枠に貼った布を盾代わりにして、草原に潜伏していた。

「そろそろいい頃合だ。いくよ。」

 燃える廃屋から広がる煙が、見張りの兵士の視野を遮りだすと、ミコたちは背後からコニラードの集落の方へと、少しずつ接近をしていた。

 時刻は深夜で、風もやみ、煙がコニラード一帯を覆った時、ミコは指示を出した。

「工兵、出番だ。──ッ」


 ミコは思わず口をつぐんだ。先頭に立つミコと、たまたま煙が薄くなっていた部分の見張り員との目があってしまったのだ。

 ミコは素早く抜刀した。刀は三日月に照らされて、キラリと一瞬輝きを見せる。

 見張りの兵士は目を凝らしてそれを今一度確認しようとした。そこにだった。


「エピリシキ・クロシア! (黙れ!)」

 ミコは引き抜いた軍刀を真っ直ぐ見張りの兵士に向けて、呪いを唱えた。

 一瞬の間から、見張りの兵士は自分の身体に違和感を覚えた。舌が口蓋に張り付いてしまったのだ。


 見張りの兵士が自分の口の辺りを手でまさぐってる間に、工兵が数名、土壁に近寄った。

 次に蓋がされてる銃眼を確認すると、まず蓋を外側から内側に向けて押し込んだ。

 すると土壁を貫通する小さな穴が、次々に開いていく。あとはこの小さな穴に爆薬の小分けした包みをそれぞれ押し込んでやれば、大方の準備は終了する。


 爆薬準備を終えた工兵たちは、素早く安全圏内へ後退した。

 既に導火線には火がつけられている。

 見張りの兵士が、喋れないなら銃で異常を知らせようと、先程敵を見失った辺りを血眼でもう一度探しながら、銃を構えた時、腹に堪える鈍い爆発音が響いた。


 この爆発により、長さ十数メートルの幅で土壁がゆっくりと、外に向かって崩れ落ちた。

 これまで幾度の砲撃を受け止めてきた土壁が、工兵の手による爆発によって、その一角が落ちたのだ。


 背後の壁が崩れれば、それまで安穏と構えていた人民帝国軍兵士も慌てふためく。

 多くの敵兵が慌てて飛び出してくる。そこへ今までどこに隠されていたのか、待ち構えていたように機関銃が命を刈り取り始めた。


 激しい射撃にたじろいだ敵兵の多くは、銃を構えるよりも遮蔽物に隠れようとした。


「突撃ッ開始!!!」

 どこからか号令が響く。それまで草原に伏せていた寄せ集めの部隊の群れが、コニラードに向けて草原を疾走する。

 先頭に立つのは拳銃を手に持つミコである。

 空いてる方の手には、軍刀ではなく、何か金属の缶を握っている。

 ミコ以外にも、似たような缶を持って走る者が何人かいた。

「手投げ弾、投擲!」

 ミコは叫びながら、それを土壁の向こうに投げ込んだ。確かにそこには、先程多数の敵兵が逃げ込んだところだ。

 投げ込まれた手投げ弾は、次々に炸裂する。

 数こそ貧弱だったが、この奇襲攻撃に敵兵はパニックに陥った。

 投擲されたものは、空の食料缶詰に火薬を詰めたものであり、その威力よりも破竹の如き爆発音が周囲を驚かせた。

 あまりの衝撃に、人民帝国軍兵の多くは持ち場を離れて武器も持たず逃走をし始める。だが勇猛な兵士による地獄の白兵戦闘が同時に開始されていた。


 ミコは軍刀を引き抜きながら拳銃でバスバスと敵を狙う。

「なかなか当たらないなあ、クソっ!」

 ひとりでに悪態をつきながら、ミコは懐から予備弾倉を取り出して再装填する。


「曹長!曹長!─危ないっ!」

 曹長の背後から近づいてくる敵兵を、ミコは見つけた。ちょうど用事を伝えようとしていたところだった。

 曹長は敵を気づくのに一瞬遅れた。


「ビロステイ・フォルティガ!(転ばせろ!)」

 軍刀を敵兵に向けてミコが叫んだ。

 膝のあたりに張られた、見えない紐に転んだように、敵兵が躓いた。曹長は落ち着いてそれを撃ち抜いた。


「ふう…」

 ミコが一息ついた。

「座標指定をするのにこいつはありがたいね。これがなかったら…」

 手に持った軍刀を眺める。反った刀身の片側に、キラリと白い刃が輝くこの刀は、シャナから貰ったものだ。


 ミコは軍学校時代の頃を思い出した。魔法というものは、効果が出てもその「座標」がしっかりしなければならないという教えを痛いほど聞かされてきたのだ。

 目で見て座標を指定するよりも、杖などを使って指定する方が容易で正確だ。だが道具を使うことで放たれる魔法は、魔法力溢れる身体から発するよりも効果が薄くなるというデメリットがあった。

 道具から発することは、それだけでが発生し、100パーセントの効果を出せないのだ。勿論、例外となる魔法もあるが。



 ミコがぼーっとしてる間に、今度は曹長から危険を知らされていた。

「少尉!後ろ!」

 ミコは素早く振り向きざまに軍刀を振るった。

 肉を裂く感覚が伝わってきた。それを十分に味わう前に血飛沫がミコの顔に飛んだ。


「ぺっぺっ、うぅ〜酷いね〜!これは。」

 血でまみれた顔を手拭いで拭きつつもミコは自分を襲った敵の死体を見た。いい斬れ味だ。わたしがあげた刀とは全然違うな。これが桜華皇国の刀か…。

 血が地面に零れ落ちる様を見て、刀から血を振り落とすと、曹長が近づいてきた。


「少尉!大丈夫ですかい?」

「お陰様でね!ありがとう曹長。」

 ミコの血まみれになった手拭いを見て、曹長は自分の手拭いを差し出した。

「ありがとう。─それでだ。ここ取れるのはいいとしても、何か情報が欲しい。一分隊を用意して急いで司令部を探そう。書類を燃やされちゃ困る。」


 ミコは陣地攻略の指揮を、寄せ集め部隊の小隊長の1人である、アンナと呼ばれる金髪の女に任せ、自分は任務に就いた。


 司令部は空になっていた。どうやらここの守備隊指揮官は自己保身のために一目散に逃げ出したようだ。

 ミコは書類をまさぐると、恐ろしいものを見つけた。作戦計画書であった。

「夜更けの宴作戦…これは…」

 ミコは人民帝国の部隊の動きが命じられた紙を見つけた。計画では首都ローゼンブルグを飲み込む手筈だったようだ。

 ミコは大事にそれを部下の持つカバンに入れた。



 30分後、コニラードには連邦の国旗が翻っていた。

 臨時救援軍の命令で放棄されて以来、何度攻撃を仕掛けても、その度に攻撃を跳ね返してきた陣地が、わずか1個大隊に満たない寄せ集めの部隊によって陥落したのだ。

 これは敵は勿論味方にも衝撃であったが、一番の衝撃を受けたのはシャーザー将軍の率いる攻撃軍である第1軍の将兵であった。


 勿論第1軍の攻撃成功に続いて、戦線中央に構える数こそあまり少ない第2軍を攻撃させ、西部方面軍を半包囲状態から叩き潰す予定であった人民帝国軍総司令部の心中も激しく動揺した。


 そこへ、最適のタイミングでロジェストヴェンスキー参謀長が準備させた偽装攻勢が始まった。

 左翼、中央、右翼の3つの軍から一斉砲撃が行われたのだ。

 戦時に以降してからあまり日が経たず、弾薬供給がまだ十分でないため、節約のために一門100発程度の限定砲撃だが、殷々たる砲声は総攻撃を連想させた。

 さらに続いて前線の兵たちが小銃による一斉射撃を行う。

 こうなると精神的に浮き立つのはシャーザー将軍だけではない。


 前線の兵たちも現場指揮官も、落ちない陣地を前にして士気は落ちていた。そこへシャーザー将軍から攻撃中止命令が届く。

「人民帝国第1軍は速やかに戦線へ復帰せよ」


 カンブルグ会戦と呼ばれるこの戦いは、わずか一週間も満たない程度で実質的な戦いは終了していたのだ。



 ミコたちは翌朝、近衛第1師団の増援と入れ替わりで陣地に戻った。

 土ホコリと血にまみれたミコを同期のサーシャが迎えた。

「ミコ!おかえり!よくやったね。師団長が呼んでるよ。情報も欲しいけど、それより顔が見たいって。」


 ミコは曹長と、他の小隊長たちとともに司令部を訪れた。

 詰まった何かが取れたように、司令部の空気は朝のそれに相応しく元気が良かった。



「ミコ・カウリバルス少尉以下、参上しました!」

 入ってください、と部屋の奥から声が届く。

 ミコは驚いた。

 師団長で軍人とは思えないほど若く、華奢ですらっとした身体に、白いスーツのようなものを着ている。髪色はピンクとエメラルドグリーンがバラバラに色付けされており、顔も異常に白かった。


「(これはまるでピエロだ…)」

 そう思ったミコはあっ!と声を出した。

「師団長、以前ローゼンブルグの広場で大道芸をやっていませんでしたか?」

 突然何を言い出すんですか少尉、と小声で曹長に言われるところをスルーし、ミコは師団長を見続けた。

 確かにミコはまったく同じ人物を卒業式のあった日に見ていたのだ。



「─はて?なんのことやら。クックック。」

 師団長は笑いながら足を組み直した。中性的な声だ。

わたくしは首都を護る近衛師団の師団長、エドヴァルド・ペトロフですよ?まさかそんな…​───────あの日はいい稼ぎになりましたね。ふふ。」

 曹長と小隊長たちがずっこけた。見ていた司令部の幕僚たちが声を上げて笑った。どうやらピエロをしていたというのは事実らしい。


「なぜあなたがそんなことを知っているかまあ、置いておくにしても。今回の仕事ぶり、お見事でした。」

「報告をお願いします。」

 丁寧な物言いでエドヴァルド師団長は喋った。ミコは手に入れた人民帝国の作戦計画書と、今回の戦闘での作戦や経過を説明した。

 ふむふむ、と時折相槌を入れるエドヴァルドは、その目線をミコの軍刀に向けていた。


「以上です。」

「​───────あーうん。分かりました。ところでそれを見せて欲しいのですが。」

 やや上の空になっていたエドヴァルドは自分の関心事に話題を移した。

「これは…海軍のものですかね?─ふむ。既に血を吸っているか。ふふふ、いけませんね。陸軍の支給品のサーベルもいいものですよ?──私はその雷切ライキリ、好きですがね。」

 エドヴァルドはじっくりと刀を眺め、白い手袋を着けた手で軽く刀身を撫でると、大道芸のように刀をくるくると回し、空中で回転させてから柄をミコの方に向けて差し出した。


「あ、ありがとうございます…」

 ミコは困惑しながらも礼を言った。

「ああ、そうそう。あなたの仕事ぶりをみると、また仕事を与えたくなってきますね。また何かしらの用事をそのうち頼むと思います。よろしくね。ふふ。」

 師団長は不敵な笑みを浮かべた。ミコは挨拶をして、睡眠と、晴れた陽を浴びに司令部を出た。


 コニラードの戦いは、突然始まり、突然終わった。しかし双方の戦力差が、初期では8倍以上という絶対絶命の中で、ベリヤたちの第13旅団は生き残ることが出来た。

 この勝利の立役者は、巷ではあまり語られることがないが、ベリヤと1人の新人の魔法使いであることは軍内部で多く囁かれていた。


 ─1918年 4月2日 ナルヴィンスク連邦 首都ローゼンブルグ


 続く。

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