今日も会えたことに・・・
あおいひかり
今日も会えたことに・・・
「いらっしゃい」
「こんばんは!今回もお世話になります!」
「相変わらず元気だね、彼なら奥にいるよ」
「ありがとうございます!行ってきますね~」
一通りの会話を終えてから、マスターに言われた奥の個室に向かう。
気を抜くとスキップしてしまいそうになる。
4年ぶりとはいえど、好きな人に会うのはやはり楽しみだ。
地に足をしっかりつけて、彼のいる個室の前に立つ。
そして、彼と私のヒミツの合図をする。
コン、ココッコン
「———。」
あれ?まちがえたかな?
もう一度———
「———どうぞ」
おおっと、合ってたんじゃないか!
マルクスもびっくりの時間差だね!
「失礼しまーーす!」
「———はぁ」
人の顔を見て深いため息とは、なんと失礼な!
こっちが不快になるってもんだ。
「せっかく私に会えたのに、なんで辛気くさい顔してるんですか!?」
「会えたからに決まってるだろう。4年も待ってこの結果はなぁ」
「4年なんて私にとってはあっという間よ?」
「おまえにとってはな」
「───」
「───」
長い沈黙。
たった数分前と比べるとまさに天地の差。
コンコンコン
「失礼します」
ノックをして、マスターがお酒を持ってきた。
「こちら、いつものになります」
「ありがとう、マスター」
マスターからワインとグラスを受け取りお礼をした。
「ごゆっくり」
マスターは無駄のない動きで、静かにその場をあとにする。
相変わらずスマートね。
「さぁ、せっかく持ってきてくれたんだから飲みましょう?」
そういって私は2つのグラスにワインを注ぎ、うなだれる彼の前に置いた。
「乾杯!」
「───」
一人でグラスをかかげ、ワインを一口、口に含んだ。
「美味しい♪ここのはほんとに間違いないわよね~」
「───」
返事はない。ただの屍のようだ。
いや、息してますけどね。
ふたたび、長い沈黙が流れる。
まったく、会えたことがそんなに嫌ですか。
分かっていたけれど、ここまであからさまだとさすがに傷つく。
「そんなに私のこと嫌い?」
「おまえに興味はない。好きでも嫌いでもないさ。俺が興味あるのはおまえの骨だけだ。」
そう、彼が興味があるのは私の骨だ。
彼は人の骨に異常な執着を持っている生粋の骨マニアなのだ。
そして私の骨に興味を持ち、殺そうとしているのだ。
骨が傷つかないように、毒殺という方法で。
その経過観察が4年に一度なのだそうだ。
でも、
「何度も言ってるけど、私に骨はないわ」
私には骨がない。
正確には無くなったのだ。
私が二十歳のときに、きれいにスッポリと。
「それは何度も聞いた!だが、この手の中にある固いものはなんだ?手だけではない。おまえを抱いたとき、身体全体にしっかりとした固いものが通っていた!あれはなんだ!?」
「私には分からないわ。だけど、骨ではないことは分かる。あなたもレントゲンを一緒に見たでしょう?」
「それはそうだが。だがあの感触は間違いなく骨だ!レントゲンに写らないのも、そういう特別なものなんだろう?だって君は魔女なんだから!」
「──なりたくってなったんじゃない」
二十歳になると同時に、私は魔女になった。そこに私の意思は全くなかった。
運命なのだと、そう思うしかなかった。
でも魔女になったからといって、魔法を使えるわけではない。
ただ老いることもなく、死ぬこともない身体になっただけだ。
周りが変わっていくなか、いつまでも変われない身体を誰が望むだろうか。
「それでもおまえは魔女なんだ!その骨にどれだけの価値があると思っている!」
「───」
はぁ。
信じたくはないけど、確信してしまった。
彼は私に興味がない。
そして私も彼への好意が薄れていってるんだと。
「──あなたと初めて触れあったあの夜、その優しさに心を許してしまった」
「なんだ、急に」
「でもその優しさは私に向けたものではなかった。私自身、気づいてたのかもしれないけど、ずっと心の奥に閉まってきた」
「なんなんだよ」
「もう60年経つのね。私には短くても、人間だったら充分なのでしょうね。あなたと私が逆だったら、また違ってたのかもね」
「何を言ってるんだ?」
「なんでもない。さぁ、今回の毒は?」
「ん?家で飲むんじゃないのか?」
「あなたとの時間に死ぬことなんて考えたくなかったからね。でも気が変わった」
「そうか!今回はこれだ!さぁ、飲んでみろ!」
「いいわ。でも乾杯しましょう?今日は一回もしてないわ」
「それくらいいくらでもしてやる!ほら」
『乾杯!』
「ねぇ、マルクス・タール。私はいつ死ねるのかしら?」
「さぁね、だが、上客がいなくなるのは痛手だ。いつまでも生きていてほしいね」
「そう、じゃあ、私もワイン飲みたいから、まだまだ死ねないわね」
完
今日も会えたことに・・・ あおいひかり @minaduki_aoi
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