第2816話 結び:幕の向こう
いやぁ、報告書に婚約者候補用のルートへの挑戦者としてエルルの名前があったのには驚いたね。クリアした? そりゃまぁエルルならクリアできるだろ。
というか進化してから更にその万能っぷりに磨きがかかってる上に、種族特性の完全把握という反則ものの隠密能力まで手に入れている。そして光を介して空間を飛び越えて移動する事も出来る。むしろどうやって止めればいいんだ? 初見殺しの欲張りセットな上に隙も無ければ油断も無いんだが?
ただ、まぁ正直に言ってしまえば、意外ではあった。何しろ、婚約者候補用のルートをクリアしたという事は、婚約者候補用のルートに挑んだという事。すなわち。
自ら。
私の婚約者として、手を上げた、という事だぞ?
あのエルルが。むしろ、賑やかな仲間と一緒にこれから情緒育てて行こうな、ぐらいは思ってたのは流石に表には出さないが、あの、エルルが。すぐ抱え込む割に自己評価と自己肯定感が恐ろしく低くて何でもまず遠慮というか自分を外す癖のある、エルルが、だぞ?
皇女の婚約者として自ら立候補した、って事だぞ? はっきり言って完全に想定外だが? どこにもいないというか戻ってこないというか、サーニャがその行方について黙っている訳だ。まさかだよ。びっくりだよ。
まぁ普通に状況を考えて、ここで立候補もしてない奴が婚約者の椅子を与えられたらまた騒ぎになるし、ちゃんと婚約候補者用のルートをクリアしたから婚約者に収まっている、としないと収まるものも収まらないと判断しただけなのかもしれないが。
「ただ一応確認しておくが、もう寝てる時間じゃなかったのか」
「敷地内に居残ろうとする人が出るのは分かってましたからね。居残るつもりなら色々勝手に作ったり設置してるでしょうし、その撤去に時間が必要なのは織り込み済みです」
「あぁ……」
まぁそうだな。いつもの調子だと、とっくに
ただ、今日は例外だったからな。時間がたっぷりあるとは言えないが、それでもまぁ、場所と時間帯だけを指定してエルルから伝言があるんだから、まぁ来るさ。
なお、間の伝言役はルールである。ほら、メモ書きを書類の山に紛れ込ませる、という小技が使えるようになったのはそのままだから。
「というかエルルこそ、世界を滅ぼしかけた元凶を倒したその足で直談判しにいって、そこから自称婚約者候補との戦闘続きだったでしょう。なのに場所と時間帯しか指定してないって事は、何日待つつもりだったんです?」
「明後日には来るだろ」
「ちゃんと休みなさいと言っているんです」
サーニャが隠す側に回っている以上、隠密に徹して動きもしないエルルを見つけるのは無理だ。そして明後日に来ると想定してたって事は、3日はここで待ち続ける所だったな?
ったくもー。と息を吐いて見せると、すっと目を逸らすエルル。そうか。それがダメだという自覚はようやく持ってくれたか。進歩してるじゃないか。次はそれを実行に移せるようにしような。
まぁでもそれならそれで、どうしてこの場所のこの時間をわざわざ指定したのかというか、指定して私を呼ぶ理由がさっぱり分からないんだが。
「……流石にまさか1週間も寝る事になるとは思ってなかったが、休ませては貰ったから、そこは大丈夫だ」
「サーニャより3日も短いじゃないですか。普段から睡眠足りてないんですから、サーニャの倍は寝てても足りるかどうか微妙ですよ?」
「夜竜族は元からあんまり寝ない種族だからな?」
「寝なくていいって訳ではないでしょう」
そこで目を逸らすあたりアウトなんだよエルル。そもそも睡眠時間が短くてもいいって言うのは、短くても深い眠りにすっと入れる、つまり睡眠の質が良い前提だからな? もちろんフリアドだと種族特性はそこまで小さくないけど。
何かいつもの会話になっちゃったな。用事って何だったんだろうか。
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