第2806話 結び:問題分解

 私の知らないところで私の婚約者の椅子争奪戦が始まっていた(なおその椅子は既に埋まっている)。という訳の分からない状態なのだが、どうやら竜皇様お父様によれば、一応とはいえこの世界の滅びが完全に回避された事と、渦中というか中心となっている私が召喚者プレイヤーである事が、更に問題をややこしくしているらしい。

 まぁこの世界の滅びが完全に回避された、これは分かる。これからの事を考えなければならないし、嬉しいニュースが欲しい。なおかつ、共通の敵がいなくなったのだから、国同士の関係性は慎重に調節していかなければならない。だからあまりこう、一刀両断に切り捨てる、みたいな態度は取らない方がいいというか、取りにくい。

 ただ、私が召喚者プレイヤーだから問題がややこしくなるとは? と思ったのだが、頭が痛い。とばかり眉間にしわを作った竜皇様お父様が、深々と息を吐きながら言う事には。


「……召喚者は、特に婚姻に関しての感覚、習慣、表現方法が、徒人族のそれと同じである、というのが広まっていてな。すなわち竜族としての婚約者としてなら明らかだが、徒人族の感覚ではその辺り、何も無いのでは。そう思う者が、思った以上に多かったようだ」

「……。そう言えばルミル、あなた指輪か耳飾りは貰っていないの?」

「貰ってませんねぇ……一応揃いの飾り紐はありますが、あれはうちに居る全員で共通のものですし……」


 うん。なるほど。いや確かに、御使族の筆頭様に言われるまで全くその辺ノータッチだった私が言うなって話なんだが、カバーさんも知らなかった辺り仕方ないと言いたい。知らんて。これが異世界異種族間ギャップ! だったもんよ。

 なおかつ、それ以降『アウセラー・クローネ』ではその辺気を付けるようにしたが、他の召喚者プレイヤーがそういう、婚姻関係のアピールが種族によって違うっていうのを「知らない」っていうのは、これっぽっちも否定できないんだよな。

 そして召喚者プレイヤーの感覚は特殊というのは大体の国と種族に広まっているし、異世界ではただの人間、こちらで言う徒人族だというのも割と知られている。だからそういう推測に至るのは何も間違ってないというか、まぁそりゃそうだな? ぐらいのものな訳で。


「でも、それなら私達も共に確認し、対応すれば良い話でしょう? 何故男ばかりで抱え込んだのかしら」

「……仕方ないだろう。滅多に頼ってこないのだから」

「あ、な、た?」


 なおそこに、男親及びお兄ちゃんとしての「頼ってほしい」というあれが絡んで更に話がややこしくなった模様。そこはちゃんと怒られてほしい。

 ただまぁ、私に知らせずに処理しようとしたって事は、中には強硬手段を取ろうとする奴も混ざってるって事だろうか。もちろん既成事実は力づくで排除してもいいが、口説きに行くだけなら止めるのは大変だ。

 で、ここまで話が分かったところで、エルルとサーニャの話になる訳だが。


「強制はしていない。連絡も封鎖していない。それは本当だ。……が。比較的多くの種族が、「既にいる婚約者を倒す事」こそが最も手早く間違いのない方法だと認識しているようだ」

「あー。……なるほど。サーニャはエルルと実力が同程度、というか、同じ『勇者』ですからね。実力の表明ならサーニャでもいい。という風に誘導して、負担軽減の為に矢面に立っていると」


 そういう事だったらしい。よくまぁ勝てると思うよな。エルルとサーニャの活躍は、話ぐらいは聞いてるだろうに。

 ……いや、話を聞いたから、か。話は話だから、絶対に誇張されている。舞台を整え準備をして、万全の状態でたった1人にしてから相手をするなら。そう判断するぐらいの頭でなければ、勝てるだなんてバカな事は思いもしないだろう。

 なおかつ。


「カバーさん。対邪神の信徒召喚者プレイヤー同盟に声をかけて下さい」

「分かりました」

「何?」


 そういう風に思考を誘導し、「その他大勢」を動かすのは。

 あのゲテモノピエロが大得意な事だからな。

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