第2805話 結び:理由と問題

「……ハイデお姉様」

「無事で何よりだわ! ちゃんと戦装束は持っていたのね。偉いわよ!」

「不要な備えであってほしかったです。それはともかく、その手にあるのはもしかして」

「そうよ。なかなか面白そうだったから借りてみたの」

「……よく振れましたね?」

「やったら出来たわ!」


 何の事かって? あの、城を揺るがす(物理)何かの正体の話だよ。

 まさかさ。



 ルウの鉄球をハイデお姉様が振り回した結果、なんていう合体事故か笑えない冗談みたいな理由だとは思ってないんだよなぁ!!



 ちなみに振り回す理由としては、ハイデお姉様が、私を拉致監禁した実行犯である皇子様お兄様2人に、私の居場所を吐かせる為の決闘を申し込んだって事らしい。あぁなるほど、それで震源の方向に移動したらお城の演習場に辿り着いたのか。

 決闘の立会人は竜皇様お父様皇妃様お母様。たぶん竜皇様お父様皇妃様お母様が引っ張り出したんだと思う。こう、空気というか圧の方向性的に。……演習場が物理的な意味でボコボコになってるのに、それに対して一切気にしている素振りが無いし。

 ちなみに決闘を受けるしか無かった皇子様お兄様2人は、ルール的に時間切れありだって事でひたすら逃げ回っていたところ、私の自力脱出&合流に気付いて余所見をした瞬間に鉄球がヒットしていた。……大丈夫かな、あれ。結構モロに入ってた気がするんだが。


「大丈夫よ。ちゃんと治療班が待機しているし、そもそも自衛ぐらいは出来なければいけないもの。鍛えているなら大丈夫だわ」

「……まぁそれはそうかもしれませんが」

「それに、話を聞けそうな相手はちゃんと残っているもの。問題なんて無いわよ?」


 わーぁ。ハイデお姉様のにっこり満面な皇女スマイルなのに、背筋にぞわっと来たぞー?

 なお私はその顔を見ただけだからこの程度で済んだが、その笑顔を向けられた竜皇様お父様がどうだったかは……ちょっと気絶して運び出されていった皇子様お兄様が羨ましかったかもしれない。

 とはいえ、私の監禁なんて強硬手段まで使った以上、女性陣が容赦する訳もない。決闘の勝者を告げる宣言をしたら、そのままずるずるとちょっと真面目な話をする為の部屋に引きず……連行……えっと、ギリギリ自分の足で移動させられていた。


「……分かった。ただし話を聞き終わるまでは、全員この部屋から動かないように。召喚者の、加護を通じて様子を見ている者も含めてだ。そして必ず最後まで話を聞く事。よいな?」


 おっと、流石召喚者プレイヤーへの理解度が高い竜皇様お父様だ。部外秘でも内密でもなく、まず動くなと来たか。しかも召喚者特典大神の加護でこの状況が記録ないし中継されている前提。まぁカバーさんがいるからな。私も記録してるけど。

 で、結局何を結託して隠していたのかと、エルルとサーニャの行方についてが語られた訳だが。


「………………、は?」


 結果として私のこれが第一声になったが、誰も他に声を上げなかったので、大体皆こんな感じだったと思われる。不敬になるギリギリラインだった気もするが、ちょっと待て?

 えーとだな。まず前提条件として、私とエルルが婚約者である事は、まぁ、その、御使族の筆頭様に言われるまで全く気付いていなかった私が言うのもなんだが、少なくとも住民にとっては「見れば分かる」どころか「話を聞き齧れば分かる」レベルの事だった訳だ。周知の事実だな。

 正式なお披露目をしていないというのも、まぁ私が召喚者プレイヤーである事と、事ここに至るまでの、大陸を渡って世界を巡りながらの大騒動を見れば、まぁそんな事してる暇ねーわなって誰でも理解できる事だった。むしろ正式なお披露目をやってたら冷たい視線を向けられた可能性まである。


「自薦他薦問わず、この子の婚約者候補としての見合い話が山ほど出ているですって? それを何とか国の間に罅が入らないように捌いていた? 呆れた。そんなお花畑の思考をしている国なんて切ってもいいのではなくて?」


 まぁだから、ハイデお姉様の感想というのも否定できない訳であってだな。むしろそんな奴相手に配慮する必要なんてあるだろうか? ぐらいの、実に空気の読めない申し出という事になる。

 理由が分からん筈だよ。詳しい話を聞いてみても全く訳が分からないとは思わなかったけど。

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