第2802話 結び:妙な違和感

 なお届いた実質の召喚状だが、これはハイデお姉様の入れ知恵ゲフンアドバイスで「御使族と不死族を含めた敷地内動線の会議があるから無理」と返信した。……そうだな。うん。確かに。嘘は言ってない。

 実際は、主に「第二候補」の徘徊を阻止する為、ではなく、通行の権利を持っているか確認する為や、通行の権利を得る為のチェックポイントをどこにいくつ作るか、って話だ。聖地の島にならう事にしているからな。なお、召喚者プレイヤー組の認識としてはスタンプラリーである。

 ハイデお姉様には直前に炙って暴力的な香りが広がるお菓子として、チーズケーキとクレーム・ブリュレを渡しておいた。チーズケーキの方は、ちゃんと炙ったら美味しいように作ってある。


「これでダメなら、次はチーズハンバーグとおにぎりでもお届けしましょうかね」


 もちろん食べる直前に炙る事で温めるやつ。焼きおにぎりをお供にあつあつチーズハンバーグを食べる……試食は大事だからソフィーナさんに作ってもらおうかな。想像してみて口がハンバーグになったとかではなく。

 どうやらハイデお姉様は、女性陣と私に味方した年下の男性陣「だけ」を招いたお茶会を開催し、そこで私が作ったお菓子を出したようだ。もちろん香りに釣られて結託していた男性陣が顔を出したようだけど、流石ハイデお姉様というべきか。「呼んでいませんわ」の一言で追い返したらしい。

 そして給仕の人やお掃除の人伝に「あれって末姫様の手作りだったらしい」からの「忙しくてこちらに来れなかったお詫びだとか」で、「傷心なのに家族思いの良い方よね」に着地させる感じの噂話を広げたようだ。


「……本当に、能力はあるんですよね。味方で良かった」


 思わずしみじみしようってもんだよ。やり方がエグい。家族にお菓子を振舞う、という1アクションだけで、何重の意味でボコボコにしている事か。冷たい視線が倍増じゃきかないだろこれ。

 既に一般竜族に浸透している噂を利用するのもポイント高いな。何しろ噂を広げた原因だと分かったところで、結託していた男性陣に対する直接の悪い噂は含まれていないんだから。何しろそれは別口であり、本当に原因は分からないんだし。

 ちなみに、ヘルトさんからシュヴァルツ家に『アウセラー・クローネ』の内情調査がこそっと来たようだが、その難易度を理由に断ったらしい。うーん流石だ。


「……難易度を理由に断った? ん? ヘルトさんなら行けそうな気がするっすけど、そもそも難易度が理由になるんすか?」

「えぇ。これも1手で何重もの意味で殴る高等技術ですね」

「すんません先輩、解説お願いするっす」


 一緒にお菓子を作っていたフライリーさんに解説すると、まず「難易度が高い」と判断する理由に「皇女がいるから」と返す事で、「皇女がいる所に探りを入れろとか反逆させる気か」という反論をする。

 そして内部調査地点とされた場所の表記を「恩のある召喚者の拠点」とする事で「心情的な難易度も高い」としつつ、「うちは味方しないからな?」と特大の釘を刺す。

 かつシュヴァルツ家で一番種族レベルが高いヘルトさんでも無理、と返す事で、できそうな人がいない事を伝える。つまり、「エルルなら出来たかも」と意訳出来る内容を返す事で「うちの最高戦力そっちの都合でいないんだが」というチクチク言葉になる。


「ね?」

「わぁ、流石あの戦争状態の中当主やり遂げた人っすねー」


 しっかし、随分と強情というか、ここまでいろいろな方面から主に精神的にボコボコにされてるのにまだ足掻くか。召喚者プレイヤーに関してあそこまで柔軟な考え方が出来る竜皇様お父様にしてはちょっと違和感だな。

 まして、そこに上の皇子様お兄様方も結託するってなると、マジで理由が分からん。ハイデお姉様がさらっと言ってた通り、私とエルルが婚約者だっていうのは、もう正直公表の機会が無かっただけの公式、という扱いの筈だ。

 ……何か、何かがどこかですれ違ってこじれてる気がするんだが。まさか本当にこう、「うちの娘はやらん!」みたいなことをしようとしてるとかか……?


「……。その実、エルルの家って格的には上から数えた方が早いんですけどね」

「そうなんすか?」

「むしろヴァイス家と対になってる最上位の筈ですよ。皇家を除けば」

「……あ、あーあーあー、そう言われればそうっすね?」


 なおかつ私は末っ子であり、実質養子。どちらも家を継がないのだから、少なくとも対外的には何の問題も無いんだけどなぁ?

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