第2797話 結び:略奪の国

「…………終わった後ですら頭が痛いであるな……」

「騒ぎの最中に出すのと、終わって落ち着いてから出すのと、どっちが良かったですか?」

「無論、落ち着いてからである。これがあの最中に出ていれば、流石に手が回らなくなっていたところであろう」


 まぁやっぱり封印だったらしいので、そのまま「第一候補」経由で御使族預かりになったってさ。ははは。流石神に成ろうとして大神の分霊を取り込んだ魔族の王だ。きっちりこっちの世界の大神の御業……「大きな傷」認定した空間を回収して封印する、その方法を模倣しようとしていたらしい。

 一通りカバーさん及びパストダウンさんと一緒に解析してみた「第一候補」曰く、これでそれこそ大神殿あたりを回収して封印して、神の力を抽出して取り込もうとしたのではないか、との事。まぁその試しとして個人や小さめの集落を封印してみた結果、抽出が出来ないって事でお蔵入りしたようだが。

 なおこの「封緘本」、開いたページによって時間が変わるが、中に封印された人や人達はその時間の変化を受けるらしい。そしてその反応が文章として表示されるんだってさ。


「つまり、勢いよくページを進めたり戻ったりすると……」

「大混乱であるな。そしてそれが文章として記される訳である」


 なお閉じ込められているという認識はあるらしく、ゆっくりページをめくっていくと何とか脱出しようとする様子が見れる。「封緘本」を閉じると記憶がリセットされる。……総じて趣味が悪いんだよなぁ。

 まさかこんなところにまで要救助者がいるとは思ってないんだよ。……それでいくと、あの私室の空間を引っ張り出したのは正解だったか? あそこから出てきたものは、司令部で回収されていた筈だし。

 その流れでカバーさんに確認を取ると、あの時部屋の残骸や家具と一緒に引きずり出された本に関しては魔族の物だって事で、“理知にして探求”の神の所へ持ち込まれていたようだ。なるほど。


「……連絡を入れるべき場所が増えたであるな」

「むしろ何でここまで話が来なかったんでしょう」

「ふむ。……今この状態で相当に状態が緩和した、という事なのかも知れぬ。「第三候補」のインベントリは、確か入れた物の状態を良くする効果があったであろう?」

「まぁ正確には私がどこかに入れた物はですが……あぁ、なるほど。私が入れた状態で2ヵ月経過しているから、状態が分かる程度に「改善」されていたと」


 つまり、そのまま“理知にして探求”の神の所に持ち込まれた「封緘本」は、まだ正体すら分からない状態である可能性がある訳だ。まぁ、そうだろうな。恐らく持ち主である、魔族の王(真)にしか開けないようになっているとか、そもそも何の本か分からないとか、そんな感じの対策はしているだろうし。


「……という事は、もうしばらくこのまま入れておいた方がいいですか?」

「……。否、流石にそこまではな。人命にかかわる事であるし、この分だと集落の方は土地ごと封じられているであろう。もし完全に封印が解けたとして、どのような形で出てくるか分からぬ」


 それはそうだな。

 なおお酒の方も確認してもらったが、こちらは普通に良いお酒だった。良かった。これ以上の爆弾はいらない。


「……」

「あの、カバーさん?」

「すみません、少々確認にお時間を貰います」

「あ、はい」


 そんな事は無かった。

 ……結果? どこかの国の秘宝とされるお酒と、神器である酒瓶と、ある種族にのみ伝わる進化に必須の特殊なお酒が混ざってたよ。再び大騒ぎになった。秘宝はともかく、神器と進化の必須アイテムはダメだろ……!

 ほんとに、ほんっとに、どこまでも祟ってくれるなあの魔族の王は! 土地の利権争いまで含めたら、倒した後でもどこまで混乱と争いの種をばら撒き続けるつもりだ!?

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