第2784話 73枚目:誓いの末

 一度限り。命を賭して自分の後ろを護る為の宣言は終えた。後は正真正銘、命を引き換えにする事でもう一段と跳ね上げた防御力で、攻撃を防げるかどうかだ。

 まぁでも、それはきっと大丈夫だろう。確かに溜めの時間が長かった分だけ威力も上がっているのだろうが、直前の一撃は今の状態で防げたんだ。もうボロボロで罅だらけで、これを撃ったら自己崩壊しますよと宣言しているに等しい姿が撃てる攻撃なら、上がり幅も知れている。

 宣言をした事で、真円の盾が纏う光が一段と強くなる。覚悟は宣言した時に決めた。後は、これで本当に最後の一発であると信じるだけだ。……信じるというか祈るに近いけど! こればっかりは!


「[ヴァイス流槍術・基型]――」

「[シュヴァルツ流剣術・礎型]――」


 と、しっかり空気の足場の上で踏ん張ったところで


「――[ターグランツェ]!!」

「――[ナクトクリンジ]!!」


 私の左右を、これでもかと魔力と威力ついでに滅殺の意志が込められた攻撃が通って行って。

 発射される寸前の十四射目。縦に裂けたような巨大な口の内側で重なり……溜まっていた力すらも破壊力に変えて、炸裂した。


「間に合った!? また血塗れだけど間に合ったね!?」

「この、降って湧いた系お嬢は、本当に……!」


 その攻撃に一拍遅れて、私の左右に勢い良く着地する足音が2つ。余程急いでいたのか、それとも別で何か戦う必要があったのか、珍しく息が乱れている。


「空間的に分断されていたのでは?」

「真っ先に言うのがそれか!!」

「いい加減ボクも怒るよ姫さん!?」


 何故そこで怒られるのか。解せぬ。

 ここで改めて後ろ……は振り返れないので、左右に目を巡らせると、どうやら溜めが最大になったところで攻撃が命中したからか、あちこちから崩れていきながら動きを見せない「吞み餓える異界の禍王」(魔族の王姿)へ、召喚者プレイヤーや住民の仲間がこれでもかと攻撃を叩き込み始めていた。

 おかしいな。少なくともさっきまで、誰1人として影も形も無かった筈だが。そもそも、空間的に分断されていた筈だ。通常手段ではどうにもならない。移動なんて以ての外だろう。

 可能性があるとすれば「第一候補」を含む別動隊だが、十三射目以外は全部溜めの時間込みでも1分半程度。一射目はもっと短かったから……まぁそれでも大体、加速状態なら20分ぐらいは経ってるのか。だが、空間をどうこうするのはちょっと厳しいと思うんだが。


「……お嬢。異界の大神の分霊のところに、始祖の灯りの奇跡を残しただろう」

「残しましたね。旗槍にしっかり魔力を込めたので、まだもってる筈ですが」

「血を魔力の媒体にするのはもう止めてね姫さん。心臓に悪いから」


 微塵も反省どころか何が悪かったのか分かってない、という感じで頭が痛そうに大きく息を吐いたエルルによれば、どうやら異界の大神の分霊と灯りの奇跡、この組み合わせで他の空間の様子が見れるようになるらしかった。

 なおかつ、「吞み餓える異界の禍王」(魔族の王姿)の攻撃による被害も、その様子が見れる場所だと共通になる。共通する部分では、壊れた場所より壊れていない空間の状態が優先される。そして救出したり防衛した分霊の同意があれば、分霊の統合という形で空間を移動する事が可能なんだそうだ。

 まぁそれが分かったのが、「吞み餓える異界の禍王」の攻撃を見て、これを防ぐのは無理では? と判断した大半の召喚者プレイヤーと住民の仲間が大神の分霊を抱えて砦を盾にして避難し、辛うじて生き残ったところで、何故か1部屋だけ一切壊れない事に気付いて調べたから、らしいのだが。


「どうせお嬢の事だし、今の様子を見る限り、完全に防ぎ切ってたんだろ」

「防ぎました」

「……ボクは何発か相殺したし、他の『勇者』とか一部の召喚者も初撃を相殺したみたいだし、エルルリージェと不死族の召喚者は声をかけられるまで相殺を続けてたらしいけど、ここまで完璧に防いだのは姫さんだけだと思うよ」

「頑張りました」

「頑張り過ぎだ」


 しかし相殺。なるほど、だから流石に2人でも消耗してるんだな。あの特殊アビリティを連続で使えば、いくらなんでも疲れるだろう。むしろ疲れる程度で済んでるのがすごいと言うべきだ。

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