第2783話 73枚目:「道連れ」

 五射目までは余裕をもって受けられた。

 七射目までは掠り傷だった。

 十射目までは息を止めずに済んだ。

 十二射目は、


「…………よし、生きてますね」


 ふー、と息を吐き、自分の状態を確認。動いていないから【瞑想】とかの回復系スキルは全部発動している筈であり、ある程度のダメージを肩代わりする、魔力でダメージを受けるタイプの防御魔法も使っているから、実質体力(HP)で受けるダメージは半分になっている筈だが、それでも結構なダメージが入るな。

 どうやら浮かんでいる球体は攻撃するたびに小さくなり、同じ大きさのものが同時発射する事で威力が上がっていく、という法則で確定のようだ。浮かんでいる球体の数は12個。本体からの攻撃を一射目として、次が最大威力の攻撃の筈となる。

 当然ながら持続型の回復魔法もかけているし、何なら攻撃を受けている間も回復魔法を連打している。そもそも、帰還かえる処を守る神の奇跡が顕現している状態で、その神に誓って初めて貰えるものとほぼ同じ装備を身につけてるんだぞ。


「ま、たった1人で、正面から、正直に受ける攻撃ではない、と言われれば、それまでですが」


 高音と低音を混ぜたような、頭が痛くなりそうな音が高まっていく。次の攻撃を受ける事自体は問題ない。たぶん受けられる。何故なら、まだ瀕死ではないからな。あちこちから細かい出血はしているが、血を吐くところまではいってない。

 問題は、私自身ではなく装備の方だ。帰還かえる処を守る神の奇跡を顕現させている以上、いくら私自身にこれでもかと縛りをかけていても、やはりある程度の代償は必要だ。今回の場合それは、「箱庭の上位騎士の鎧・再現(女性用)」の耐久度となる。

 もちろん、見た目の優雅さとはかけ離れた頑丈さがあるのは知っている。相応の耐久度があるのも知っている。だが、ここまで全力で奇跡の顕現が続いていると、やはり消耗も進むだろう。流石にこの鎧無しでこの奇跡の維持は出来ない。いつものドレス鎧に戻ってから願い直したとしても、やっぱり強度は落ちるだろう。


「っふ――…………ぐ、っ!!」


 少なくとも、今のように正面から、単身で、ラスボスの最後の足掻きを受けて生き残れるほどの強度は出ない。と、確信したところで、十三射目が来た。

 盾を介して攻撃の圧が腕にかかる。それを全身に逃がし、耐えて、自分に回復とダメージ肩代わりの防御を連打する。不動の縛りがあってもなお後ろに下がりそうな足を、全身全霊で空気の足場に縫い留める。

 揺らげばそこから食い破られる。緩めばそこから押し通られる。だからこそ一分の隙も無く、完璧に受けて防御する。向こうは馬鹿正直に真正面から撃ってくれてるんだ。一番防御力が高い所に、一番守りやすい形で。そんなお膳立てされたような状態で、受けきれなくて、どうする……!


「っ……!」


 食いしばった口の端から血が垂れたのが分かる。体のあちこちで肌が内側から弾ける感覚がある。跳ね上がっている筈の防御力をそれでも越えて、回復力を上回るペースでダメージが蓄積していく。

 領域スキルへの追加リソースの投入はしていない。だから回復力の全てが自分に使えている状態だ。それでも追いつけないのだから、まぁ、やっぱり、単身で受けるべき攻撃じゃないんだろう。受けられないというべきかもしれないが。

 だが。


「……っは、」


 ここまでで最長の攻撃時間、実に3分にも及んだ攻撃を、耐えきった。分かっている。体力(HP)も魔力も危険域。スタミナはそこそこ残っているが、踏ん張った分だけ相応に減っている。魔法で回復出来ないのだから、余裕があるとは言えない。

 だが、耐えた。十三射目。見えている範囲では、最後の――


「はは……」


 ――周囲に浮いていた、球体の残光のようなもの。

 それが、「吞み餓える異界の禍王」(魔族の王姿)の、縦に裂けたような巨大な口に、集まっていく。


「……まぁ、そんな気は、しました」


 ま、それはそうだな。だって初撃は、一射目はそうだったんだから。

 十四射目。それも恐らく、周りの球体が攻撃している間の時間も溜めに注ぎ込んだもの。もう魔視でみるまでもなくその姿は罅だらけであり、杖の形に縛った何かも半分近く崩れかけている。

 恐らくは正真正銘、次が最後の一撃。だが、困ったな。これ以上威力が上がると、何の対策もなしでは、受けられない。だがこれ以上できる対策は、少なくとも今の私に出来る範囲では、1つしかない。


「守る事に全身全霊を。現在いまを守れるのは今を生きる者だけ故に。それ以上は神の領域。生きる者では届かぬもの。故に祈り、願い、乞う。神よどうか、護り給えと」


 ただまぁ。


「しかして神とて届かぬ事はある。命の輝きが神の奇跡を凌駕する事がある。現在いまを守らず未来さきは無いとしても、現在いまに全てを賭して未来さきが守れるのであれば。心を示して神に託せるのであれば――――この命とて、盾に出来る」


 ラスボスの攻撃でのロスト(可能性)と、自主的に命を賭す事でのデスペナ。どっちがマシかは選べるんだから、まだ上等だろう。

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