第2782話 73枚目:守護神の奇跡
「っ、は、はは」
数分か。数秒か。恐らく私の体感よりは短いだろう時間の後で。
奇跡請願は成功した。だから私の前には、両手で支える巨大な白い盾がある。真円を描くそれはつるりとして弧を描き、球体の一部を切り取って持って来たような形だ。裏からでは見えないが、縁にはぐるりとルピナスとカスミソウが浮き彫りにされている筈である。
正真正銘、ボックス様がボックス様になる前の、守護神としての……
もちろん取りこぼす事も無い。実際、何かが壊れる音は聞こえなかったし、領域スキルにも異常は無い。流石に圧が強くて呼吸は止まっていたが、それを再開ついでに笑いが零れる程度には、本当に最高な神様だ。
「――――第四形態とか、聞いてないんですが?」
その盾と、盾によって発生した防御の為の力場。或いはこの砦全体を包むバリア。
その向こうに、恐らくさっきぶっ放してきたのと同じだろう攻撃の元を球体として周囲に浮かべ、周囲にある星空のような何かを黒寄りに濁らせたような灰色の力で縛り上げて杖の形に固めたような、「吞み餓える異界の禍王」(魔族の王姿)がいるとは、思ってなかったが。
ははは。逃げなくて良かった。撤退しなくて良かった。本当に。うっかりこいつを、仕留めそこなう所だった。危ない。
「ほんっとに、しぶといというか、諦めが悪いというか……いやまぁ、レイドボス討伐成功メールが届いてない時点で、そういう事なんでしょうけど」
ふー、と再開した呼吸を整え終わり、耳を澄ませる。……パキパキと何かに罅が入るような音が聞こえるが、それは私の後ろ以外からだ。という事はすなわち、「こちらの空間」以外の何かという事になる。
それがこの、世界の果てから半歩外に出たような空間そのものなのか、正真正銘手を出してはならないものに手を出した「吞み餓える異界の禍王」が自己崩壊する音なのかは分からないが、まぁ、耐久するだけで倒せそうっていうのは良い情報だ。
何せ。ボックス様もとい
その奇跡を全力で願って発動している以上。
私は「防御行動」以外、何も出来ないからな!!
流石に自分へのバフと回復ぐらいは出来るが、振り返る事も出来なければ下がるなんて以ての外、攻撃どころか相手へのデバフ、領域スキルの範囲変更も出来ないしインベントリの操作も不可能だ。
まぁそこまでガチガチに縛るからこその防御能力っていう面もあるし、縛りに対して得られる防御力が破格なのも間違いない。でなければ、私単身でこの規模の砦を丸ごと守り切るなんて不可能だし。
「っく、の……!」
なんて思いつつ呼吸を整えていたところで、第二射が叩き込まれた。重い。が、最初程の圧は無いし何も見えなくなる訳じゃない。確実に最初の一発より威力は低い。大丈夫だ。
それでも詰まりそうになる息を、意識してしっかりと続ける。この程度で息を止めていてどうする。呼吸は大事だ。軽々と、とはいかないが、余裕はある。防ぎ切れている。……さっきより放射時間が長いな。まぁ時間が長いだけなら耐えられるけど。
メニューを開いて時間を確認する事は出来る。いつの間にやら残りイベント時間は加速状態で11時間を切った。……いや、1時間ちょっとで残り3割を削り切ったのか。結構なペースだな。
「……。体力を削り切った、のは、間違いない筈ですが」
第二射は都合1分ほどだったようだ。ここで放射が止まったので、素早く「吞み餓える異界の禍王」(魔族の王姿)の周りに浮かぶ力を圧縮した球体、推定残弾の数を数える。
残り12個。第二射で1つ使っている事を考えると元は13個。……いや、減ってない気がするな?
大きさもばらばらだが、内2つは大体大きさになってるな。一番大きいやつ。最初は全部大きさ違った気がするが。って事は……あれか。段々同時発射数が増えて威力が上がっていくパターンか!
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