第2778話 73枚目:死闘熱狂

 どうやら司令部に無事情報は届いたらしく、視界の端で開いた雑談掲示板は悲鳴で溢れていた。どうやら誰も「ラスボスの道連れ攻撃はロストする可能性」を否定出来なかったらしい。そうだな。フリアドの運営なら、やりかねないな。そういう方向の信頼だけは、ほんとこう、分厚いから。字が間違ってるのは承知の上で。

 ベテランになればなるほどその可能性は高いと感じるし、恐らく第一陣、いや、第二陣以前の召喚者プレイヤーならほぼ確信しているだろう。フリアドの運営なら、やりかねない、ではなく、やる、と。

 ロスト、というのはプレイヤー用語なので住民には伝わらなかったのだが、「大神の加護が剥がされる」と言い換えると伝わったようだ。……まぁ、そうだな。この身体アバターは大神から与えられたものだし、今ここにいるのは大神の加護によるものだからな。


「ごしゅじんいなくなってしまうですかー!?」

「ルチル達だって、危ないんですからね! 大神の加護が剥がされるなら、分け与えられた分だって例外ではないんですから!」

「それはそうですけどー!?」


 なおその歌声で儀式に参加していたルチルが半分泣いてしまったが、だからこそ警戒しようって話で、だからこそある意味理不尽慣れした召喚者プレイヤーがここまで悲鳴を上げてる訳でな。

 この話が広まって、召喚者プレイヤーは当然住民の仲間にも動揺が広がったが、意外と言ったらいいのか、動揺が一番少なかったのは元々現地で冒険者をしていたりした、戦いに身を置いていた人達だった。うちの竜族部隊の人達も含む。

 まぁ……戦いの中で仲間が、友人が、肩を並べた相手が喪われる。それが本来の、戦う覚悟ってやつだからな。復活する前提なんて無茶苦茶な条件で、気軽に命をかけられる召喚者プレイヤーの方がズレてるんだ。


「だからこそ! 1人残らず、全員で! 生還する為に力を尽くすんですよ!」

「……っ、そう、ですねー! 頑張りますー!」


 うちの子の中だと、ルチルが一番早く合流したし、故郷で同族の面倒を見るとかいうイベントも無かったから、たぶんダントツで召喚者プレイヤー慣れしてるんだよな。それこそ、私達が言う所のリアルという正真正銘の異世界を知らないってだけで、ほぼ召喚者プレイヤーだと思う。特に、死に戻りに関しては。

 何せルチルは、体力がない。素早くはあるが、面攻撃の1発であっさり僅かな体力は尽きるだろう。もちろん防御魔法は重ねられるが、だからと言ってその実、そこまで魔力の絶対値が高い訳でもない。特化しているのはあくまでも、魔法の速射だからだ。

 知ってるんだぞ。……その体力の無さを、防御力と耐性の低さを逆手に取って。危機察知系スキルと体力残量依存の補助スキルを積んで、掠ってからが本番です、ってスキル構成にしてるのは。誰が鉱山のカナリヤになれと言った。自分で考えて思いついたっていうのも知ってるけど。


――――ドン!!!

「っぐ……!」


 今度こそ、流石に耐えられない大きさの揺れが襲い掛かる。恐らくは「吞み餓える異界の禍王」の、最後の体力バー。その残りが1割になった。ギリギリ踊りのファンブルを回避して、動きを続ける、が。


「流石に、完全防御は無理がありますか……!」


 明確に、踊りに合わせて奏でられ続ける音楽の、音の種類が減った。空間的に分断されている影響が出ているのか、領域スキルの負荷も随分と増している。ミシミシと軋むような音も止んでいない。

 だが。私がいるこの場所は、砦の中央ではない。拡張され続けているから比較的内側にはなっているだろうが、それでも移動した時点では中央より外側に位置していた。もちろん、「吞み餓える異界の禍王」側の。

 そして私の位置で軋む音が聞こえている、という事は、私より内側ならもう少し状況がマシな筈だ。流石に掲示板を追いかけて情報を拾い上げる余裕はないが、まだ住民の仲間が見えているという報告は上がっている。


「ちぃ姫、あと1割確定!」

「まだ中央から後ろは住民の姿も見えてる!」

「強制退去もなし、徘徊する奴が増えたけどダメージは通ってるってよ!」

「了解、このまま最後まで抑え込みます!」

「おっけぃ!」

「ここまま走り切れー!」

「道連れだけ忘れるなー!?」

「対策は司令部に任せた!」


 この辺りでも、見えなくなっただけで、同じ場所に居る事には違いないしな。

 あと1割。最後の1割。空間的な分断と徘徊する方の増殖だけではきっと済んでいない。さっきの揺れもそうだし、口と腕の増えたステージボスだってたくさん出てきているだろう。

 道連れがあるのもほぼ確定。だからそれに対処する必要があるって言うのは忘れないようにするが……まずは目の前の、この1割を削り切るまで、耐えてからの話だ……!

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