第2777話 73枚目:終局アクセル

 どうやら混乱しつつも掲示板で共有された報告と情報によれば、「吞み餓える異界の禍王」の内部空間では、徘徊する方の数が増えたんだそうだ。逃げ回らなきゃいけない相手が増えた訳だな。

 なおかつその内片方は住民の攻撃が一切通らず、『勇者』相手でも怯みすらすることなく押し通ろうとしたらしい。ただ早々に、住民の攻撃が通らない方は、住民にも攻撃が通らないという事が判明し、異界の大神の力を住民の仲間にパスする事にしたようだ。

 こちら側での分断はギリギリ砦の表面で防げている状態。領域スキルというか、「こちらの空間」の外に出ると、召喚者プレイヤーと住民はお互いが認識できなくなるらしい。座標が重なる事もあり得るので、「こちらの空間」に戻る際は重ならないようによく注意する事、と、全体連絡が行われていた。


「っ、残り、2割……!」


 そして、ここまで来るとほぼ瀕死だからか、吸い込み行動が止まった。その代わりなのか、更に口と腕が追加されて、口と腕が無い面積の方が小さくなったステージボスがこれでもかと襲ってくるようだ。そちらは引き続き絶賛迎撃中となる。

 一部というか「こちらの空間」の分だけでも空間の分断を阻止しているからか、既に空間的に分断されていると思われる場所であっても、倒したステージボスは共通になるらしい。元々の仕様かもしれないが、数が倍になるって事は無いようだ。

 「吞み餓える異界の禍王」の内部空間に突入した組が一切手を緩めていないからか、大量のステージボスの出現は「吞み餓える異界の禍王」にとっても所謂身銭を切る行動だからか、体力バーが減っていく速度はむしろ加速するぐらいらしい。あっという間に次の1割が削れたのか、先ほどのものよりやや強い振動が届いた。


「ちぃ姫、今度はクラン単位で分断らしい! クラン仲間以外が見えなくなったって!」

「砦の外から半分ぐらいでも住民が見えなくなったって報告がある、食い込まれてる!」

「了解! 最終的に、個人単位に分断されそうです、ね!」

「そんな気がする!」

「じゃあ次はパーティメンバーだけが見える状態か」

「前線に連絡、一応誤射が怖い同士はパーティ組んどけって!」

「おっけ任せろ! ただもう何人か書き込んで、流れ早い!」


 今度は踊りを止める事はしない。ケミカルライトを振って、観客という形で儀式の補強をしてくれている人を中心に、司令部からの情報と召喚者プレイヤーそれぞれが報告を上げた情報が伝えられるが、何かそんな気がするなぁ。

 ま、『可愛いは正義』の人達だって、特にここまで私にべったりついてこれるのはガチガチの最前線組だし、何なら古参のベテラン勢だ。この位置……ある意味私の生ライブに直接参加できる権利……の争奪戦が激しいのは、それこそ火を見るより明らかってやつだし。

 テンポを上げているからスタミナの消費も激しいが、【竜身魂】が戻って【王権領域】と【皇竜の鼓舞】が乗った状態の私なら、スタミナの回復力を少しでも残せばすぐ回復する。ステータスの暴力の本領発揮だ。


「……ん? 残り2割でクラン単位だと、残り1割でパーティ単位だよな?」

「せやな。どした?」

「いやちぃ姫の勘というか嫌な予感が当たるのは異論潰すけど、それでいくと、個人単位で分断されるのって体力無くなったタイミングじゃね……?」

「……せやな? え? なんかこう上手く言語化出来んけど、ダメな気がするんだが?」

「えっ、ちぃ姫! ちぃ姫これどう思う!?」

「ちぃ姫ー! すまん俺らじゃ上手くこの嫌な感じ言語化出来んー! ひたすら嫌な予感がする事しか分からんー!」


 とか思いつつ集中していたら、そんな声が掛けられた。うん!? うん、いやまぁそうだな? 自分で言ってみてあれだったが、確かに個人単位に分断されるのはラスボス「吞み餓える異界の禍王」の体力がゼロになった時だな!?

 でもたぶん個人単位に分断される気がする。たぶんそこは、少なくともこの感じ他の人も同感だ。だが体力が尽きればそこで戦闘は終了の筈で、そこで更に分断する理由があるとするなら。


「……っ! そういえば、散々やられていましたね……!」

「流石ちぃ姫!」

「言語化能力が高いちぃ姫!」

「俺らより一段勘の精度が高いちぃ姫!」


 合いの手が褒め殺してくる。

 ではなく。


「――道連れ能力持ち! 最初の人形を相手する時、そこに湧いたモンスターが持ってました! 死に戻ったら高難易度試練モドキダンジョンが出現する以上、相打ちになったらそのまま通常空間が潰されかねません!」

「それだ!」

「いや待てラスボスの道連れ、それ最悪ロストあり得ね!?」

「フリアドの運営ならやりかねん!」

「司令部に報告! 警告!」


 こーの。

 もう、本当に、フリアドの運営は……!!

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