第2776話 73枚目:残り3割と半日

 ――イベント期間、加速状態で、残り12時間。


「おわ、っと……!」


 灯りの奇跡を願い、その炎を旗槍の先端に灯した状態で、浄化の儀式の舞を踊る。これがどうやら現状の最高効率らしく、「吞み餓える異界の禍王」の内部空間とだいぶ拡張された砦の防衛戦は他の人に任せて、私は全力で踊っていた訳だが。

 ドン!! と、一瞬足元が浮かぶほどの揺れ。素早く着地してそのまま踊りを継続し、節目で一旦フィニッシュする。残り時間を確認して、全体連絡掲示板を開いた。

 戦場が広がると、司令部の人も忙しくなるからな。少なくともやる事が変わらない私に張り付いている暇は無い。もちろんよほどの緊急事態であれば話は別だが、少なくともさっきまでは何とかこちら有利に進んでいたし。


「こちらとあちらで、ほぼ同時に残り3割を切りましたか」


 3段の体力バーの一番下。その残りが4割になった時はここまでと変わらず、強い吸い込みが一定時間行われただけだった。「吞み餓える異界の禍王」の内部空間と直接のやり取りは出来ないが、『勇者』が徘徊する方の「吞み餓える異界の禍王」を追い回すようになってからは、割とこまめに出入りが出来るようになったし。

 だが、残り体力3割。これは他のレイドボスでも節目となるタイミングだ。7割の時はステージボスの腕と口の追加、5割の時は追加に加えて強制退去だったから、たぶん何かあるだろうとは思っていたが。

 警戒はしていたし備えていた。踊りを止めたのもすぐに動けるようにする為だ。まだ種族スキルと領域スキルが1つずつ戻っていないが、それでも私の耐性と防御力とリソースの上限は高いからな。


「……住民の仲間を、見失った……?」


 ん? とちょっと考え、私も自分で周囲を見回すが……いや、いるぞ? 休憩しに戻って来たルチルと、張り切り過ぎて武器を消耗しすぎたルシルと、武器である鉈を研いでいるルージュがいるが?

 そのまま他の、というか、雑多な報告が上げられる掲示板を見に行くと、大体反応は2つに分かれていた。すなわち私と同じように、いるが? と困惑している組と、いねぇ! と慌てている組だ。

 私も一応、現在位置の情報を添えて情報を書き込み、報告とする。……。あ、いや。よく見たら、法則があった。いる、と報告しているのは砦の奥にいる召喚者プレイヤーで、いない、と報告しているのは外にいる召喚者プレイヤーだ。という事は。


「っ、浄化の儀式再開! そのまま強度を可能な限り上昇させ続けます!」

「りょ!」

「おっけ!」


 あー、と納得しかけたところで、私の耳に、ミシ、と何かが軋むような音が届いた。これが特殊行動って可能性もある。だから防ぐと体力が減らせない可能性もある。だがこれは恐らく、阻止できるか、せめて遅延できる類のものだ。

 恐らく条件的に、「こちらの空間」の外で影響が強く内で影響が弱い。という事はつまり、召喚者プレイヤーと住民という条件で、空間的に分断されたって事だ。空間的にずらして戦力を分ける、確かに人手が足りてない状態で更に削るなら有効だろうさ。

 ただしこれは諸刃の剣でもある。何故なら空間を分けるって事は、叩く事が出来る面積は増えるって事なんだからな。連携を断った程度で火力が落ちるような召喚者プレイヤーではないし、仲間ではない。


「逃がしません……! 散々、さんっざん! ここまでどれほど、空間を分けて人形を相手にさせられた挙句その奥に隠れられていた事か!」

「あーなるそういう事」

「流石ラスボス汚い。いやラスボスじゃないな。魔族の王だな」

「他の世界に移動してまで全てを喰い尽くす国のトップだけはあるわぁ」

「ちぃ姫、楽器増やしてペース上げるー?」

「やりましょう! ちょっとここで分断してやられてる暇は無いです!」

「オッケー!」

「テンポとテンション上げてくぞ!」


 が。それはそれ、これはこれだ。

 分断の為に空間を割れば、その隙間が出来る。隙間が出来ればそこに逃げ込むのが見えている以上、絶対に阻止してやる……!!

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