第2772話 73枚目:待機行動

 事前にどういう空間か聞いて覚悟をした召喚者プレイヤー達が、「吞み餓える異界の禍王」へと突撃していった。もちろんしっかりと灰色の鍵の残量を確認し、何なら司令部からある程度の数を融通してもらっている筈だ。既に中にいる人の分も含めているから。

 砦の方の増築も一定ペースで進んでいる。それに応じて、一ヵ所に集まっていた領域スキル持ちも、ある程度距離を置いて等間隔に配置される形に移動する事になった。まぁそれはいいんだ。無事に砦が拡張されて「こちらの空間」が広げられてるって事だし。

 ただし領域スキルの展開範囲の拡張だけはどうにもならない。一応回復力が伸びるたびにつぎ込むリソースを増やして自然回復力を鍛えているし、スキル自体も微々たるものながら伸びているんだが。


「バフをかけても、元のステータスが下がっているからそこまで劇的な効果になりませんし」


 移動したので現在は私1人である。司令部の人はいるし、竜族部隊の人と推定可愛い好きの有志が護衛としていてくれてるけど、ちょっと距離がある。まぁ独り言だからいいんだけど。

 最前線は忙しいんだろうなーと思いながら留守番。というか置物。まぁちょいちょいあった事だから仕方ないし、状況考えれば十分に働いているからいいんだが……やっぱ暇だな。

 まぁ掲示板が見れるだけまだいいんだけど。防衛戦してる組は忙しそうだな。【調律領域】があれば支援も出来たが、今の私はマジで置物だから。頑張れーと念を送る事しか出来ない。


「……。つまり、何らかの行動で領域スキルの効果が強化出来ればいいのでは?」


 で、思いついた。そうだな。領域スキルを強化すればいいんだよな。やってる事自体は基本的に、力場的除染をして土地を取り返すのと一緒なんだし。こっちは場所そのものを作って、領域スキルの効果を染み込ませてるけど。

 まぁその力の強度を上げればいい訳で。なら、もうちょっと出来る事があるな。棒立ちで暇だからではなく。いやそれも無いとは言わないけど。


「司令部、別動隊に確認を。儀式行動で現状において有効なものの中に、踊りは入りますか?」

「確認します」


 ……部屋の外でガタガタッと音がしたが、それはまぁそっとスルーするとして。力場を強化する、神の力を呼び込む、って意味だと、たぶん踊りはいける筈だ。歌でもいいかもしれないが、それは連絡とかの邪魔になる可能性があるし。

 流石にボックス様の感謝祭の踊りをするのは場違いだし、そもそも【調律領域】が無いから意味も薄い。ただ竜族の皇女として、一応各種儀式の踊りも一通りは触ったからな。大分うろ覚えだが、システムアシストをフル活用すれば、一応無様を晒す事は無いだろう。たぶん。

 で。「第一候補」なら、今のタイミングでそういう確認が来れば、どの踊りを誰がどういう配置でやれば一番効果が上がるかっていうのもセットで伝えてくれる筈だ。ここも出来るだけ効率を上げた方がいいからな。


「返答来ました。踊りは有効、現状の配置で効果の高い儀式種別は浄化あるいは豊穣との事です」

「ちぃ姫が踊ると聞いて!」

「バックミュージック用意完了!」

「儀式対応ケミカルライト配布開始するわ!」


 まぁ。司令部の人への返事と、推定『可愛いは正義』の人達の行動がほぼ同時なのは、部屋の外で音がした時点で分かっていた事だし。準備が早いに越した事はないから。うん。

 浄化あるいは豊穣、となると、その中ならどれでもいい感じかな。ただ今回空間を取り返すという事だから、火と風を司るティフォン様より、水と土を司るエキドナ様の方が相性は良さそうか。建築に使われている属性だし。

 『可愛いは正義』の人達に混ざって、観測班だろう人が撮影機材設置しているし、頑張って踊っていこう。この手の踊りは例によって、無限ループできる仕様になってるしな。

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