第2769話 73枚目:足踏み理由

 神の力が込められたアイテムを使って稼げるのは、加速状態で半時間という事が分かった。ラスボスである「吞み餓える異界の禍王」の体力バーを1割削るのに、それでも加速状態で20分ぐらいかかっていたから……加速状態で残り、17時間を切ったぐらいか。

 流石にスタミナ的に厳しい人も増えてきたし、どちらにせよしばらくは突入組の動き待ちという事もあり、少人数ずつに分かれてだが仮眠を取る事になった。まぁこの状態で回復力が落ちると、環境で削り切られる可能性があるからな。

 とはいえ、領域スキルが重ね掛けられて相乗効果を出している。その状態だと短い休憩や仮眠でも回復度合いが大きいらしく、スムーズに休憩の交代は出来ているようだ。……中にはステージボスを解体して素材をとって、ポーションを作ってる人もいるが。


「……。吸い込みが止まるだけで、ダメージが入る訳ではない、と。しかしモンスターが出てくる以上は何かリソースを消費している筈ですが……いやまぁ、レイドボスと言えば無限に取り巻きを召喚するもの、ラスボスならそれがワンランク上になっても、一応おかしくはないというかあり得はするでしょうけど」


 私は領域スキルを維持する中心になっているし、種族スキルによる補正のメインになるスキルが無くなっても、良く鍛えた竜族なので。ここに突入する前には仮眠してるしな。とりあえずあと17時間ぐらいなら大丈夫だ。

 どうやら吸い込みで減った空間が戻る事は無いらしいが、砦が大きくなって領域スキルで守られていれば、それを「こちら側の力による空間」と認識する事が出来るとの事だ。

 つまり、空間的な綱引きが行われてるって事だな。竜都の大陸で、2体のレイドボスの領域に踏み込む事になった時と同じように。


「という事は、ある程度以上拡張が進めば、儀式場だけである程度「こちらの空間」を維持する事も出来るようになるんですか?」

「少なくとも大神官さんからの指示と助言ではそうなるようです」


 まぁあの時とは違って撤退は出来ないし、補給もままならなければ、神々の手助けも気休め程度だが。ただその時の攻略手順にならうのなら、吸い込みで移動した先が後半戦、あちら側の領域なんだろう。

 だったら全員で移動するのが正規ルートのようにも思えるが、たぶんそうじゃないんだろうな。むしろ今ここで足踏みしているのは、どっちかというと、もう少し後……南北の大陸に入ってからか、いっそ最後の大陸に来てからの攻略手順だ。

 たぶん、「こちらの空間」の面積というか体積というか。相手の影響力を弱める手順が足りてないんだろう。だからこそ「第一候補」も、先に足場を固めろと言ってきたんだろうし。


「後半戦が向こう側であり、本体というか核がその奥にあるとして。それはそれとして、今見えているのも「吞み餓える異界の禍王」の本体ではある筈ですから……」


 ……。

 この狭間の空間と、相手の内部空間で、同時に核を撃破するか、移動する核を追いかけて攻撃する事になる、とかかな。そうだな。いたな。御使族の街、南北の大陸の間にある聖地の島を取り戻す時がそうだった。

 本当に何というか、盛りだくさんだよなぁ……いやまぁここまでの攻略を振り返る良い機会なんだし、良い作りのギミックボスではあると思う。それは本当にいいと思う。アツい展開だ。大好きだよ。


「……本当に、もうちょっと時間が欲しかったですね」


 その振り返りの全てが、本当に死力を尽くして時々限界を踏み越えてなおギリギリで。

 今この振り返りながらの攻略もまた、ギリギリもギリギリで余裕なんて微塵も無い、という状態でなければ、もうちょっと浸れたり懐かしんだりしたんだけどなぁ……と、思うだけで。

 本当に、フリアド運営のタイムスケジュールが見てみたいよ。描いていた通りの難易度であれば、召喚者私達は、一体何度敗北する予定だったんだろうな?

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