第2757話 73枚目:防御結果

「点呼!!」


 凄まじい揺れに思わず息を詰めていたのか、それとも何かダメージが入って一瞬気絶していたのか、司令部の人が張ったらしい声で呼吸を再開し……ごぶ、と、声の代わりに水音が鳴って、慌てて左手で自分の口を押えた。

 その流れでざっと全身を確認すると、酷いものだ。具体的には血塗れ。幸いなのは、装備にはダメージが入って無いって事だろうか。直接私にダメージが入る、という状況は知っている。恐らく、領域スキルを展開していたからだろう。

 ずきずきと一拍遅れて全身からの痛みが来るが、ここで違和感。灯りの奇跡が消えていたのはまぁ仕方ないとして……回復が、遅い。圧倒的に。だが例の状態異常で傷が広がっていく、という感じもない。


「――ルミル、生きています。ただし灯りの奇跡の維持は失敗、領域スキルも恐らく強制解除され、理由不明ながら自然回復力が大幅に落ちています」


 とりあえず小声で「[クリーン]」と詠唱して血汚れを一旦綺麗にして、点呼に応答する。そのまま自分に継続回復魔法をかけ、回復魔法をかけ、と回復していくが、発動自体は問題なく出来るようだった。

 しかし、妙な感じだな。何かデバフが乗っている感じとも違うし、装備にも異常は無い。体も動く……が、重いな。体がなのか装備がなのかは分からないが、何より普段なら何のバフも無くても数秒で全回復する体力(HP)や魔力が、いつまで経っても回復しない。

 ……いや、回復しない訳では無い、な。一応回復してはいる。それが著しく遅いだけで。何だ? ステータスが下がったか? ダメージと一緒にデバフでも強制的に通されたか?


「ちぃ姫さん、失礼します」


 と、自分で自分を回復しながら膝立ちの姿勢でスタミナと魔力の回復速度を気持ちでも上げていると、カバーさんがこっちに来た。そのままじっと視線を向けてきたので、たぶん【鑑定】系のスキルを使ったんだろう。

 まぁ私が自分であれこれ調べるより、そっちの方が早い。のだが。何故かカバーさんは、眼鏡のブリッジを押さえた。え、何。何があったの。


「……スキルに「喰奪」という状態が表示され、使用不可能になっているようです。具体的には【調律領域】、【王権領域】、【竜身魂】、【生命力・極】の4つです」

「あぁ、なるほど。それは確かに他のスキルでは補えないやつですね」


 よりによって、種族スキルがやられたか……!

 そりゃ回復力も大幅ダウンするって話だよ、あれ1つで種族スキル6個分の補正が入ってたんだから。しかも何気に回復力を支えていた【生命力・極】もダメになってるなら、まぁ無理だな。

 しかし、まぁ、その、何というか。


「しかしド直球な状態表示ですね。……もしかして、領域スキルの分だけ持っていかれました?」

「その可能性はあります。種族特性と【皇竜の鼓舞】は奪えなかった為に他のスキルに流れた、という可能性もありますが」


 なるほど。そういう可能性もあるっちゃあるか。……もしかして【皇竜の鼓舞】の場合、旗槍にワタメミの加護を貰って無かったらアウトだったか? そんな気がするな。

 なお司令部の点呼の結果、領域スキルを展開していた人の内、領域スキルだけを封じられていた人と、他のスキルを封じられた人がいた。ただし他のスキルを封じられた人は領域スキルに加護か祝福を貰っていたらしいので、やはり私の種族スキルを持っていかれたのは種族特性と【皇竜の鼓舞】の分だったらしい。

 しかし、困ったな。これで無茶が出来なくなった。ではなく。「喰奪」という状態異常から推測するに。


「……私の種族スキルと、大半の領域スキルが持っていかれましたか……」

「ヤベェな」

「無理では?」

「近寄る事すらできんやつ」

「領域スキル同士で干渉して相殺されてたらワンチャン」

「まぁ無理やろな」


 喰って奪う。そういう字を当てられているなら……まぁ、そういう事だろうな。

 だからこそ私も、持っていかれたという表現をしたんだし。

 ……使用不可能になっている、というだけで、スキルそのものが消えた訳では無いから、取り戻す手段はある、と、思いたい。

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