第2756話 73枚目:限界

 あまりにもイラついたラスボスが、舌打ちと共に全方位高威力攻撃をぶちかます、という一幕もあったが、流石ここまでずっと前衛を張り続けた召喚者プレイヤー及び仲間だ。力押しには変わらない=特殊な属性や状態異常は乗ってないっていうのもあってか、全員どうにか凌いでいた。

 流石に召喚者特典大神の加護ごしの映像では魔視は働かない。だが通常の視界でも、杖の罅が増えて行っている事、そして真っ黒い肌に刻まれた魔法陣が、少しずつだがその灰色の光を強めている事は分かる。

 恐らく魔視でみていれば、真っ黒だった力に灰色が混ざり、だんだん浸食していくのがみえたのだろう。私は相殺と回復、そして領域スキルと灯りの奇跡の維持で忙しかった為、ステージが夜空に見える何かの只中に移ってからは、移動した直後しか本体は直接みれていないが。


『この! こんの、下等種族の分際で! 鬱陶しさだけはじょうと、う……っ!?』


 更にもう1つ拠点を飛ばし、一応生きていたらしいオートマップによれば、最初の位置から丁度拠点1つ分だけラスボスに近づいたところで、中継動画で調子よく(?)苛立ちの声を上げて魔法をばら撒いていたラスボスの調子が変わった。

 いやこれは、変わったというより、と思った瞬間に、今いる拠点に全力で防御を乗せる。もちろん既に出来る限りの防御は乗せているが、やっぱりどうしても効果時間が長い物を選んでかけていたからな。

 時間差で届いていた魔法攻撃が届かなくなる。その分だけ手が空くから休憩、何てことはせず、同じくこの場所で防衛戦をしていた召喚者プレイヤーは総出で防御力の強化を行っている。後方で次の砦を作っていた生産組も、慌ててこっちに戻って補強作業に入ったようだ。


『こ……な、ん……!? ばか、な! 制御、はっ! 制御、出来て、いた、は、ず……!』

『観測班、撤退します!』


 左手の杖から罅割れの音が聞こえる。全身にあるのだろう魔法陣はもう眩しい程の輝きだ。観測班が撤退を画面越しに報告した次の瞬間、パキ、と音がして、右目の周りに陶器のような罅が入っていた。

 もちろん観測班が撤退を開始したので、それ以上の映像は無い。当然私の側に目を凝らして直接みている余裕もない。一応こちら側に残った観測班が望遠鏡みたいなものを使って観測を試みているようだが、今はそちらを見ている暇はない。

 何故かって? 当然だろう。あの様子からしてもうラスボス、いや、魔族の王は異界の大神の力を制御できなくなった。つまりはようやく耐久戦が終わるからだ。そしてステージが今の状態に、前の第一形態から今の第二形態になった時、何が起こったか忘れる程、私達は状況を楽観してない。


「あ――あ、あああああああああアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「後方集合、耐衝撃体勢――――っ!!」


 魔族の王ラスボスの叫びに負けないよう張り上げられた司令部の人の声。その声に応じて、全速力で戻って来た攻撃組も一緒に、その場にいた全ての召喚者プレイヤーと仲間が、後方にある建築途中の砦へと移動した。

 全力で防御を張って補修した、それでもある程度壊れた拠点を、全壊してもいい盾とする。もちろん即行でエンジンが点火されて、少しでも距離を取るように前へ進み始めた。

 もちろん後方の、建築途中とはいえ既に相当な防御力を備える砦に移動し、こちらにも全力で防御を張る。領域スキルも重ねられ、範囲を狭めて出力を上げ、法則をもって並ぶことで儀式場を形成して更に強度を上げる。そこに聞こえた、メキ、という音は、何が軋んだ音だったのか。


 ステージ移動の時の、空間の揺れ。

 それと同程度か、もっと強い揺れが、その場の全員に襲い掛かった。

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