第2755話 73枚目:後手と対処

 その後、2つ目、3つ目と足場である拠点を飛ばしていくうちに、拡声された方ではなく、全体連絡スレッドの方に朗報があった。どうやら攻撃組は、瞬間的にだが防御を突破する事に成功したらしい。

 どうやらある程度耐久度があるし、それを越える攻撃でも必ず1度は防ぎ、武器攻撃なら弾いて、なおかつ攻撃力に応じたカウンターをする、という効果の盾を、それこそ1㎝四方ぐらいの大きさで無数に展開していた形になるようだ。

 武器攻撃だと弾かれるから、1つ1つ撃破しないといけなくて大変だったそうだ。だが攻撃組はその盾の正体がほぼ確定した時点で、副武装……ダーツや投げナイフといった攻撃手段を解禁したらしい。


「まぁ確かに、元々使い捨てのものなら弾かれるのは気にしなくていいでしょうし。この辺が使い時でしたか」


 当然ながらちゃんと狙わないと上手く当たらず、耐久度を削り切る事が出来ない。ラスボス自身からの反撃もあるし、言葉で言うほど楽ではない。

 ただそれでも何とか連携して攻撃を集中させた結果、その飛び道具の1つがラスボスに当たったんだそうだ。そしてその盾の防御を信じ切っていたらしく、素直に刺さって痛がったらしい。

 なるほど、それでこっちへの攻撃の圧が緩んでるんだな。その攻撃を通した誰かを追い回しているのだろう。もちろん圧が緩んだだけであり、攻撃自体はまだ十分な密度が飛んできているのだが。


「武器攻撃は弾かれるが魔法攻撃は弾かれない!」

「なおかつカウンターの射程は短い!」

「反撃も今飛んでくる攻撃に混ざれば誤差!」

「更に言えば攻撃がその場に留まればカウンターも相殺可能!」

「鬱陶しがられる事でヘイトが更に分散!」

「すなわちその最適解は!」


 ただ、まぁ。ある意味そんな隙を見つけて大人しくしている召喚者プレイヤーではない。マントとベルトを揃え、全く同じ作りの杖を掲げた召喚者プレイヤーが円陣を組んでそんな事を言っている。

 うん。そんな気がした。手の空いた回復組がノリノリでこれでもかと魔法攻撃力を上げるバフを乗せまくっているからな。威力を上げると制御が大変になるんだが、今回は暴走しても問題ないって事なんだろう。

 何しろラスボス相手だからな。射程を伸ばし、ラスボス付近に直接魔法を「設置」するなら、威力的な意味で暴走しても変わらない。


「「「威力特化攻撃系壁魔法! 合体魔法――[カレントヒート・ウォール]!!」」」


 楽しそうだな。しかしあれほど何度も戦犯もののやらかしを繰り返しても、折れずくじけずここまで来たのは素直にすごいと思う。

 しかし威力特化の壁魔法とは。いやまぁたぶん名前からして、電熱で焼き切る事で攻撃を防御する魔法なんだろうし、それの威力を更に上げたものなんだろうけど。防御力が高い壁魔法って意味だと間違ってないんだけど。

 ここで観測班の人が撮影してくれている中継動画を確認。電熱、という推測は正しかったらしく、バチバチとすごい音を立てている雷の塊みたいなものが、ラスボスの纏うバリアに接触していた。


「というか、接触しているからすごい音になってるんですかね、これ」


 高圧洗浄機を使ってる時みたいに何かが飛び散っているが、もしかしてこれは飛び散っているんじゃなくて、カウンターが発動してるって事なんだろうか。

 短時間で大量の「盾」を削り取ったのは確かだが、しかし、やっぱり魔法だからかラスボスが睨むとかき消されていた。もちろんすぐに次の魔法が設置されるが、そちらは1秒と持たずにキャンセルされる。

 ただそれを見た攻撃組の攻撃レパートリーの中に、壁系魔法の設置が加わった。水属性の壁魔法を帯電させたり、魔法攻撃を反射する事に特化した壁系魔法を設置したりして、その隙間を狙って攻撃が飛んでいく。


「あ、高笑いが止まった」


 よほどうっとうしかったのか、ラスボスが高笑いを止めて壁系魔法のキャンセルに集中し始めた。ただしそちらに集中するという事は、当然こっちへの攻撃が疎かになるって事だ。

 ……こっちの手が空くと、複数人による強化された魔法が更に連発されるだけなんだが。まぁこっちはその方が楽だし、自分から術中に嵌って後手にまわってくれるんなら何よりだ。

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