第2753話 73枚目:防御と攻撃

 全力で耐久戦をしているものの、やっぱり足場になっている城塞にもダメージが入るし、時々浮かべる為の魔法陣があるところにも攻撃が通ったりして、不安定に揺れる事もあった。正直、死に戻りが出て無い時点でもう満点だろう。

 装備の修復に手を抜く訳にはいかない。もし半端な状態で前に出たら死に戻りかねないからだ。強制退去とそれに伴う通常空間の変化という名のペナルティはそのままだ。ラスボス戦の途中で脱落、というのもゲーマー的には絶対避けたいだろうし。

 それでも攻撃が苛烈なのは変わらないし、前に立つ人数が減ればその分だけ厳しくなるのも当然のことだ。厳しくなれば消耗が激しくなり、より復帰に時間がかかる。悪循環だな。


『――――全体連絡! 後方に新規拠点が完成、現時点を持ってこの拠点を放棄し、全戦力を移動させます!』


 退避者もただ待っている訳では無く、修復に参加したりアイテムを作ったりと、生産組に参加する形で耐久戦への参加を続けていたが、まぁそれでも限界はある。

 流石にそろそろ支えきれないぞ、と思ったところで、拡声された指示が響いた。後方? と振り返る訳にはいかなかったが、いつの間にやらそんなものを作っていたらしい。

 まぁ確かに、今足場にしている城塞は、しっかりティフォン様とエキドナ様の祝福を受けていると言っても、2m四方の板を地面と見立てて「築城の小槌」で作り出したものだ。しっかりスキルを使って作られたものと比べると、その性能は何段も下がる。


「お嬢! 下がるぞ!」

「――はい!」


 大勢の召喚者プレイヤーが下がっていくのを音で聞きつつ相殺を続けていたが、ラスボスに直接攻撃を仕掛けていたエルルも下がって来たので、最後に一発、派手な魔法を撃って下がる事にする。

 今の今まで足場として耐えていた城塞をそのまま盾にする都合上、新しい砦は一回り小さかった。だが突貫工事ならこんなものだろうし、何より周囲を囲む壁も、砦本体も、これでもかと言うほど壁が分厚い。

 私は先ほどまでと同じくその屋上に着地する。領域スキルの展開範囲は私を中心としたままだ。だから新しい砦もきっちりその効果範囲内に収まってい


「え、いつの間にあんなの取り付けてたんですか?」

「元々あるもんじゃないだろうなとは思った」


 ……何か、さっきまで足場にしてて、今はその質量による盾になっている城塞の後ろに、ロケットエンジンみたいなものが取り付けられているんだが。なぁにあれ。

 しかも見ている間に点火されたのか、ドゴォォオオオ!! とすごい勢いで炎を噴射し、ラスボスに向かって突っ込んでいく。もちろんラスボスの攻撃によって崩されていくんだが、それでもデカい分だけ耐える時間が長い。

 で。なおかつ、今立っている砦も、それに合わせて前に進んでいる気がするんだが。え? まさかこれにもついてるの?


「いや、まぁ……直接攻撃を試みる都合上、あと、魔法型の敵に対して、距離を詰めるのは基本中の基本ですけど……」

「あ、そういう意図で動かしてるのか。まさかぶつけて攻撃するんじゃないだろうなとは思ったが」


 ……いや、それもある。全体連絡スレッドを確認すると、ちょっと遡ったところに書いてあったから。ついでにそこに、防御バフだけじゃなく速度バフもかけて下さいって書いてあった。

 元々の移動速度がそれなりにあるのか、私からも速度バフを追加すると、気持ち進むのが早くなったからな。流石にこの1回で距離を詰める事は出来ないだろうが、この調子で2回3回と砦を質量兵器にしていけば、そのうち届くかも知れない。

 ちょっと余裕が出来たので後ろを振り返ると、既に次の砦が虚空に建築され始めていた。……浮かぶ為の仕掛けというか魔法陣がある場所を厳重に壁で囲むのは当然として、その前側に何重にも壁を作っているのは、出来るだけ前に進めるようにだな? 耐久戦なんだから、攻撃に耐えるって意味でも正解だけど。


「……至極大真面目にやってるんですよ。間違いなく」

「…………。つまりあれは、思い切りが良すぎるやつだな?」


 エルルの確認には目を逸らさせてもらおう。間違っては無いし、有効なのも確かなんだし。

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