第2752話 73枚目:耐久戦

 クズが、恐らく既に力に呑まれかけている為の高揚感で高笑いをしている間に、「築城の小槌」で出した城塞に集まった召喚者プレイヤー陣営は生存確認をして、城塞を浮遊要塞へと変えていた。仕事が早いな。助かる。

 そして何とか足場を確保したところで、司令部更新の全体連絡掲示板にも「耐久戦の可能性が高い為、決して無理をしないで下さい」と書き込まれた。まぁその可能性が高いっていうか、まずそうなるよな。

 で、実際どうだったかって?


「矢の気軽さで殲滅魔法連射すんなバカ!!」

「まともに受けんな! 逸らせ! 周りは空いてんだ、味方がいない場所ならどこでもいい!」

「こっちが実用不可能な低確率の即死魔法必中にせんといてもろて!」

「範囲狭い攻撃は避けていいっつか避けろ! 蒸発する! 足場は生産組が直す!」

「ほんとこれ相殺できてんの!?」

「手ぇ止めたら辛うじて耐えてる防御組が即全滅すんぞ!」

「できてるかじゃねぇやるんだよ!」


 耐久戦は耐久戦だが、ひっどい事になってるよ。もちろん私も全力で回復と相殺をやってるが、私ですら数撃ちの魔法だと威力が足りないんだから流石ラスボスって言うべきか。

 だが詠唱に時間がかかる魔法は使ってられないし、数撃ちの魔法でも1発に対して複数当てればギリギリ相殺できる。もっとも、それでもすり抜ける魔法がある訳だが。

 幸いというべきか、ここにきてラスボスの攻撃は魔法でありながら、全部見えるようになった。魔視を使わずとも、だ。たぶん制御できてないからだろうな。過剰分の魔力が、魔法そのものを光らせる形で漏れ出ているのだろう。


「これほんとにさっきのポンコツと同じ奴!?」

「元々魔法だけはラスボスで納得だったろ!」

「制御がバカになってる分だけ更にポンコツ化してる!」

「今もこれだけ威力あるのに連射しかしねぇし!」

「魔法の曲射は頭使うから徹夜ハイじゃ無理だよ!」


 余裕がない分だけ素直な感想が出てるし、距離がある上に高笑いが続いてるからって遠慮ない評価になっているが、つまりそう言う事だ。私達竜族でももうちょっと工夫するぞってぐらいの力押しだな。

 なおこちらで防衛戦をしているのは後衛火力による相殺組、足の遅い前衛による防御組、防衛組を生き残らせる回復組、城塞を修理する生産組だ。私は相殺組と回復組を兼任しつつ、領域スキルと灯りの奇跡を維持してマーカーにもなっている。

 では、足の速い前衛は何をしているかって言うと。まぁ当然ながら、ラスボスにちょっかいをかけているのだが。


「一旦戻った! ダメだ、硬ぇ! 破壊不能レベル!」

「防御させたら一応消耗するっつか、暴走度合上がるのは間違いない」

「オートカウンター付きな上にしっかり反撃してくるけどな」

「たぶん小さい盾を無数に並べてる感じだ、あれ」

「マーキング能力つきの攻撃でもなかなか入らないからおかしいと思ったら……」


 どうやらそういう感じらしい。そして硬い分だけ武器の耐久度も削れるし、カウンターはともかく反撃を避けきれずに食らう事もそれなりに多いようだ。

 ギリギリ死に戻りによる脱落は避けているようだが、隠し部屋で消耗品をがっつり補充出来ただけはある、といった感じだな。どうやら飲んで使う回復用だけじゃなくて、装備の耐久度を回復できる修復用のポーションもあったから。

 流石に建材は無かったが、土や岩、水を出す魔法を使って魔法的コンクリートを作るのも、生産組は慣れたものだし。私も一応、領域スキルと灯りの奇跡、そして相殺の為の魔法と消費が激しいものの、【調律領域】の供給能力を開放している。


「にしても助かるわ。踏ん張り発動直後の事故がない」

「常時1割回復はデカいよな。その後すぐ追加で回復受ける前提だけど」

「スタミナもな。息切れで緊急回避失敗はシャレにならん」

「ほら装備修復出来たよ!」


 もちろんだが供給限界は設定しているし、回復する分の大半は領域スキルの維持に回しているから、特に魔力はほとんど配れてないんだが、まぁ役に立ってはいるようだ。

 だが、これが1時間も2時間も続くってなると流石に厳しいぞ。クズにちょっかいをかけている攻撃組は少しずつでも情報を得ているみたいだし、そっちに何か糸口がある可能性はあるんだろうが。

 エルル達も攻撃組だし、何かあるといいんだけどな。流石にこのまま純粋に防衛戦を続けるしかない、っていうのは、無いと思いたい。

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