第2751話 73枚目:遷移
もう一度衝撃波が来るのは想定通り。領域スキルにかかる負荷と圧が増すのはここまでもあった事。だからそれらは耐えられたんだが、まさか大部屋そのものが吹っ飛ぶところまでは……いやちょっと思ってた。
何故ならこれはラスボス戦だからだ。所謂「お約束」を結構律儀に守るフリアドが、ラスボスに関する「お約束」を守らない訳がない。テンションも上がるしな。これでこそ最終決戦って気になるし。
何のことかって言うと。ほら。ラスボス戦は……時空の歪みとか、空間の狭間とか。そういう場所で行われるもの、だろう?
『「第一候補」、無事ですか!』
『無事、とは言えぬであるが、こちらは全員生存しているである! 「第三候補」こそ、決して領域スキルを切るでないぞ! 何なら範囲を広げて全員を範囲に収めるである!』
『足場の当ては!?』
『ない! そちらにある力場を頼りに辛うじて安定させる事で現状手一杯である!』
『分かりました、こちらで出来る事をします!』
大部屋が吹き飛び、夜空に見える何かの只中に放り出される。司令部の人が即座に「各自で足場を確保!」と指示を出しているのに応じて空気の足場を設置、そこに着地しながらまず無事ではないだろう「第一候補」にウィスパーを飛ばす。
とりあえず生存が確認できたので良し。そして領域スキルを切ってはならない、かつこの空間では足場になるものが無く、「第一候補」の方で補佐する事も出来ないという事が分かった。
まぁ無いなら無いで仕方ない。という事でインベントリから取り出すのは、一応念の為持ってきていた、しっかりとティフォン様とエキドナ様、すなわちフリアド世界の地母神系に属する神の祝福を受けた、2m四方の建材で作られた板だ。
「足場を作ります! 大質量出現注意!」
そしてそれを、「月燐石のネックレス・寵」の鎖を巻いた「築城の小槌」で、ぶん殴った。
瞬間、少なくともあの大部屋が丸っと入るぐらいの城塞が出現する。出来るだけ四角くて安定させやすい形のって事で、実用最優先の砦の上位互換みたいなやつになった。
もちろんそのままでは、重力の方向は分からないがどこかへ落ちていく。が、声掛けに気付いてくれた周りの
「――――っははははははははは!!!」
その城塞にわらわらと
しっかり領域スキルの展開が続いていて、ついでにあの部屋で願ってそのまま維持している灯りの奇跡も旗槍の穂先に残っているのを確認。むしろ灯りの奇跡があるから「第一候補」もこちらを認識できる気もしてきたので、引き続き維持するとして。
そこまで確認してから、視線を向ける。ただの笑い声にすら、物理的な圧を伴う程の力が乗る。それだけの力を得た相手に。
「なるほど、なるほど! 神がこちらを見ない訳だ。神が応じるのは必ず上からである訳だ! 生きているものなど、矮小、脆弱! 命など、吹けば消える程度のもの! これが真なる神の力!」
何とかハイってやつか、それとも大部屋ついでに何かこう理性とかそんなのも一緒に吹っ飛んだか。高笑いと共にそんな事を口にしているのは、とりあえずまだ見た目はあのクズ、もといラスボスである、魔族の王のままだった。
四肢にある魔法陣は灰色に輝き、右目は白目の部分まで一様な灰色に染まり、黒かった髪も2割程がメッシュを入れたように灰色になっている。ブラックオパールの杖は左手に持ち直しているが、目を凝らせば酷く罅が入っているようだ。
それ以外の装備は無し。いくら元々リラックスしていた状態から引きずり出されたと言っても、多少のアクセサリはつけていたし、ベルトや手袋はつけていた。それが無くなっているのは……たぶん、吹き飛んだんだろう。
両袖を破り捨て、両裾をかなりの高さまで破いてスリットを入れたようなローブと、手に持った罅だらけの杖。それだけが確認できる装備だ。……首元からも灰色の光が覗いているところをみるに、全身にあるのだろう灰色の魔法陣をカウントしなければ、だが。
高笑いをしているクズは、少なくとも自覚できる範囲では大変と調子が良いのだろう。だが魔視でみる限り、左目や髪の毛のように、体のあちこちに灰色が侵食していっている。
現時点でこれなんだ。その万能感を与えている力を振るえば振るう程に浸食は進む。取り込むどころか、それこそ力に呑まれてしまうだろう。恐らく、右足側の裾を破く直前に懸念し躊躇った、その通りに。
ただ問題は、その出力だけは間違いなく高いし、こちらの攻撃もまず通らないって事なんだよな。……あの灰色に浸食された様子を、第二形態、と形容していいのなら。
「……
そんな感じがするんだよな。たぶんだが。
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