第2750話 73枚目:最終段階

「…………力は強いですが、しかし、それだけですね」


 メキ、とドレス鎧が若干抗議のような音を立てた気がするが、あえて無視して、小さくとはいえ声に出す。いやぁ、範囲対象の庇う系アビリティが間に合って良かったよ。地道にスキルを育ててたかいがあった。

 何せパリィ系統なら使えるからな、この腕装備。【盾】スキルは【大盾】スキルに進化させていたから、【盾】スキルを取り直して【小盾】スキルに育て直したんだ。頑張れば全スキル系統を網羅できる仕様で良かった。

 自分に周囲の人に向いた攻撃を集めて弾く。もちろん弾くときの参照ステータスは自分のものだが、弾くタイミングはプレイヤースキルだ。どこに弾くかっていうのも問題だし。


「しかし天井に大穴が……あー」


 どうやらとりあえず一発目は単発攻撃だったらしく、受けるより弾いた方が被害は少ないだろう。また攻撃をどこに弾くかという選択肢もほぼない。結果として弾かれた攻撃は、全部天井に向かう事になったようだ。

 その結果、天井には大穴が開いた訳だが……そこに見えていたのは、いつか、最初のレイドボスである「膿み殖える模造の生命」の時、ステージ中央の空の向こう、残り時間をがっつりと削られて空間に罅割れが入り、その向こうに見えた、夜空のような何かだった。

 あれが見えるという事はかなりまずい事になっているらしい、という事しか分からないんだが、バックストーリー的にこの場所はとても不安定なのだろうし、それぐらいは出てきておかしくないか。……いや、というより、ラスボス戦でありがちな条件で行くと


「……んっで、なんで、死んでない!!」


 と、そこまで考えたところで、クズもといラスボスが怒鳴った。余裕がなくなって来たな。そりゃそうか。だって今の、明らかに制御できてなかったもんな。むしろ今ギリギリ制御を取り戻した事を褒めるべきか?

 とはいえ自分で破いたローブの両裾と左袖の縁はぼろぼろだし、今のは暴発で間違ってなかったらしくあちこちに内側から弾けたような傷がある。もちろんその前から受けた傷もあるんだろうけど。

 息を荒げて周りを睨みつけているが、その灰色の右目がちょっとおかしい。虹彩だけではなく、白目の部分にも灰色が広がっているようだ。うん。制御できてないな?


「神の力、それも、純度の高い大神の力だぞ……! なんでそれを直接浴びて形が残ってる! 大神の加護があったとしても、無理があるだろう!?」


 そりゃまぁ、お前が扱ってるからじゃね?

 というのは言わないが、召喚者プレイヤー側の感想としてはそんな感じだろう。どんな力だって、使い手次第で脅威にもなれば鈍らにもなる。制御が足りずにただの衝撃波にしかならなかったんだから、お前よりも巨大で圧の強いレイドボスを何体も相手してきたこっちからすれば、正直ただの全体強攻撃でしかない。

 とはいえそれを理解する事は出来ないだろうし、理解させる気も無い。魔視でみても、クズの露出している手足部分は当然灰色だが、それ以外の部分にも灰色が侵食しているようだ。まぁそれはそうだろうな。


「そりゃそーだろーよ」

「あぁ!?」

「大神の力そのものなんて、扱うのは無理って事! 取り込んだとか十分馴染んだとか言ってたみたいだが、実際扱いきれてねーじゃん? 今のだって暴発だろ? 今も抑え込むので精一杯な癖に? それ以上には扱えないからこれ以上何もしないってか出来ないんだろ? ん?」

「この……そうか、お前、粘液か……!」

「いやもう進化して【人化】いらなくなってるからな? 何度目? あー、覚えてらんないか、制御に手一杯だと頭回んないもんなぁ。頭のスペックが低いと大変だなぁ?」


 で、ここは余計な思考を回す前に煽って決着を急ぐことにしたらしく、人形の記憶を引き継いでいる可能性を考えて「第四候補」が煽り役になったらしい。はーやれやれ、とばかりの呆れ果てた顔をしている。

 いやーしかし真っ黒い肌なのに血が上ってるのは分かるんだな。血管が浮きあがるのは変わらないようだ。まぁ一応ベースは魔人族であり大分類としては人間種族だから、そこまでは変わらないんだろうし。

 ただここでただただ大神の力を振り回しても、自分の消耗が進むだけでこちらにダメージは入らないだろう、というのを判断する事は出来たらしい。


「……いいだろう。放っておいても良かったが、みせてやる」


 こうして大人しく様子を見ている上で煽って行動させた理由は、制御できてないって言っても、その大神のものらしい力が渦巻いて、カウンター防御みたいになっているからだ。だから正解は、時間切れまでこのまま待つ事だったんだよな。

 それが分からなかったもしくは思い至らなかった、あるいは煽りに負けたクズは杖を右手に持ち替え、左手で右の肩のあたりを掴む。そして、


「正当なる進化を遂げた先、真なる魔を司る、大神をすら超える神になる瞬間をな!!」


 大神ってフリアド的に創世の神であり、それ以上って無い筈なんだがそれはともかく。

 ビリィッ、と、勢いよく右の袖を、破り捨てた。

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