第2749話 73枚目:技巧と難易度
「ふん! やたらめったら相手を見もせずに加護をばら撒いたか! 大神も随分と安い存在になったものだ!」
いやお前が言うな、と何人かこらえきれずツッコんだようだが、それはともかく。無数に展開した筈の魔法陣が数秒も持たないと見て、クズは慌てて次の手札を切る事にしたらしい。
再び、ビリィッ、と布を破る音が響く。今度は破り捨てたのではなく、ローブの裾から太ももの辺りまでを開くように破いたらしい。スリットかな? 真っ黒い肌はともかく男の足だけど。
まぁそこにも当然、灰色の魔法陣がびっしりな訳で。魔法陣が壊されていく向こうで、それでも魔法陣が灰色に光ったのはみえた。もちろん、ボーナスステージ! とばかりの勢いで魔法陣を壊しまくっていた
「だがな! 今度はそうはいかないぞ! 空間だけではなく、時間にも干渉できるようになった! それが何を意味するのか、その身をもって思い知るがいい!」
わざわざ解説してくれるなんて親切な奴だな。(棒読み)
さて左腕に加えて左足の灰色の魔法陣を光らせて出現した魔法陣は、今度は9枚だった。1枚1枚はクズの全身を覆う程に大きいが、枚数としてはぐっと少なくなった。
ただ、魔法陣1つに使われた記号の数は圧倒的に増えた。しかも時々重なりながらクズの周りをまわっているし、それなりの速度が出ている。これを読み解くのは大変だと思うのだが。
――ガシャァン!
「なにぃ!?」
そんな事は無かったようだ。司令部はすごいなぁ。
さて今度のギミックは何だったかというと、どうやら偏差攻撃の亜種というか……9枚の魔法陣は動き回っているのだが、これは3枚ずつの3組に分かれて、同じ軌道を描いているらしい。
同じ軌道という事は、3枚の魔法陣は全く同じ位置を通る訳だ。なおかつ魔法陣はその軌道の場所によって記号の位置を複雑に入れ替えるんだが、これも同じ場所なら同じ配置になるらしい。
で、その同じ場所にあたる魔法陣の部分を、全く同時に、同じ物理属性と魔法属性で攻撃すると、3枚1組になっている魔法陣は壊れるんだそうだ。と、司令部からの全体連絡掲示板に解説兼攻撃指示が書き込まれていた。
「ふ、ふん! まぐれだな! 1枚でも残れば攻撃は通らないんだぞ! 少しでも間違えれば、無謀にもこっちに向けた牙はお前ら全員に向かうからな! 避けながらまぐれが繰り返せるものなら繰り返してみせるがいい!」
――ガシャァン!
「!?!?!?」
あーあー。声にならない叫びをあげるってこういう感じなんだな。というか、今のは絶対に狙っただろ。タイミング的に。言い切った瞬間に攻撃が入って次の3枚1組の魔法陣が割れたから。
というか、失敗したら全員に反射ダメージが入るって効果で、なおかつクズからの攻撃も飛んでくる筈だったようだ。まぁまぐれでも何でもないし、残りは3枚になったが。一気にやらなかったところを見ると、実質3枚の盾って事だったんだろうか。
ただ、流石に最後の3枚1組になって後がないっていうのは分かったらしく、一気に無数の魔法が飛んでくる。……んだが、まぁ、所詮は1人が放つ攻撃だ。いくらステータスが高くても、同時に撃てても、手数が違えば相殺できるし防御できる。
――ガシャァン!
そうこうしている間に、最後の3枚1組の魔法陣が砕かれたらしい。枚数が少ない分だけ早かったな。やっぱり最初の奴が一番面倒だったのでは?
私が攻撃の相殺にも防御にも参加してないって時点で、だいぶ余裕だ。最初の時はそれなりに防御支援してたからな。防戦一方、とはいえ、時々攻撃は飛んできてたから。
さてこれで、一瞬とはいえ防御が無くなった訳だ。さてどうするのか、と思ったら。
「この、この……っ! 下等種族が!!」
どうやら全魔力を防御魔法に回したらしく、透明で分厚い卵の殻みたいなものが出来ていた。その中で、クズは右手を伸ばし、自分の右足の裾を握った。
「貴様らとは、種族としての格が違うんだ……!」
そして一拍おいて、勢いよく上体を起こすとともに腕を振り上げる。ビリィッ、と音がして、どうやらかかとで裾の裏側を踏んでいたらしいローブの布地が、腰の辺りまで裂けた。
黒い肌に黒い服なので分かりにくいが、スパッツのようなものをはいているらしい。それが見えるぐらいギリギリまで見えた右足には、左腕と左足同様、灰色の魔法陣がびっしり描かれている。
四肢も半分を越える。という事は恐らく、そろそろクズとしても主に制御がヤバい段階に入っているのではないかと推測出来る訳だが。
「それを、思い知れ!!」
さて何が来るのかと身構えて、防御を重ねたそこに。
全てを叩き潰すような形で、強大な力がそのまま、叩きつけられた。
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