第2748話 73枚目:段階進行

 今回のレイド戦を「対人戦」としたのは、そういう読み合いが前提としてある事だけでなく、相手の体力が表示されないという部分も含んでいる。そう、未だに【鑑定】系のスキルが通ってないんだよな。

 まぁでも、向こうがこっちの事を見たり聞いたりできるように、こっちだって数字じゃない状態を確認できる。私は相変わらず陽炎のようなもののせいで見えにくいが、それでもまぁ息が上がって来たな、って事ぐらいは分かるし。

 第一、魔法陣の壊れるペースは変わらないどころか上がっていくのに、補充するペースは落ちてきている。何せだんだん、魔法陣をすり抜けて攻撃が当たりそうになってる声と舌打ちが増えてきているからな。


「あぁくそ、この下等種族共が! 嫁候補を隠した上に神に成るのを邪魔するとか、羽虫でももう少し賢いぞ!」


 瞬間、どう聞いても何枚もの魔法陣が一度に割れる、重ねたお皿をそのまま落としたような音が響いたが、そこから正真正銘のトドメが入るより、クズが動く方が早かった。

 ビリィッ、と布が破かれる音。どうやら右手で左腕の袖を破り捨てたらしいが、問題は、陽炎のようなものごしにも分かるぐらいはっきりと、その腕に灰色の魔法陣がびっしり描かれていたって事だ。

 灰色、というのが何を意味するのかは全員が分かっている。そしてそれを、袖を破ってでも露出させたという事に意味があるなら、それも大体は察せる。


「貴様ら程度には過ぎた力だ、光栄に思いながら塵になれ!」


 魔視の強度は最低限まで下げていたが、それでも十分みえた。露出した左腕の魔法陣が、灰色のまま光ったのが。

 領域スキルに圧と負荷がかかるが、これはまだいい。問題は、それこそクズが見えない程の密度と数になった魔法陣だ。さっきまでのペースでは到底間に合わない。防御に余裕が出来れば、クズは攻撃に回るだろう。

 まぁそれでも受けられないとは言わないが、この調子で四肢にある分は発動するとしたら、ここで消耗していると後が厳しい――と思っていたら、魔法陣の向こうで高笑いしながら、クズはこう言った。


「ははっ、ははははははは! どうだ! 異界のものとはいえ、大神の力だ! ただの魔法や武器どころか、神の力でもそう簡単には通らない! この防御を破りたければ、最低でも大神の加護を持ってくるんだなぁ!!」


 ……、ん?

 と、思ったのは私だけではないだろう。サーニャもちょっと首を傾げている。というか、大半の召喚者プレイヤーと、召喚者プレイヤーに慣れた仲間は軽くお互いの顔を見合わせている。

 大神の加護。はて。随分と馴染みのある言葉だな? で? それがあれば破れるって事で、いいんだな?

 クズの高笑いが響く中で、そういう感じの、無言のやり取りが数秒あり。

 次の瞬間。


「ははははは――――はぁ!?」


 ガガガシャガシャガガガガガシャンガシャガガシャン、と、大変うるさい音と共に、増えた魔法陣は勢いよく減っていき始めた。もとい、片っ端から叩き壊され始めた。

 うん。まぁそうなるよな。何しろ召喚者プレイヤーっていうのは、例外なく「大神の加護」を持っているんだから。そしてこの場にいる住民の仲間は、こちらも万が一に備えて例外なくテイム状態……すなわち、大神の加護を召喚者プレイヤーから分け与えられた状態だ。

 つまり、大神の加護なら全員持ってるんだよな。しかもちゃんとその強度を上げてきているのが、最前線で戦ってきた召喚者プレイヤーだ。そしてそれで良いらしいというのは正しかったようで、どんな攻撃をしても魔法陣が壊れていく。


「な、なん!? 大神の力だぞ!? それに対抗出きるほどの大神の加護が、そんな、簡単に得られる訳がないだろうが!? なんだ!? 何が起こった!?」


 もしかしてこの段階、ボーナスステージだったんだろうか。さっきまでの、普通に対応する属性を合わせる方が面倒だったぞ。

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