第2746話 73枚目:ようやくの本体

 私が誘拐された、もとい転移の例外条件に引っかかった理由はあっという間に召喚者プレイヤーの間に広がり、クズの性格がクズだっていうのも合わせて殺意が一段と強まった。うん。まぁ。そりゃな。ここまで論外なクズだったらな。

 実に殺伐とした感じで召喚者プレイヤーが同じ方向を向いて団結しているから、原因となった私は、わぁ。としか言いようがない訳だが、まぁクズだしな。領域スキルを大部屋の半分きっちりに展開して、リソースを微調節して最大の効果を出している。

 一応「第一候補」に確認したところ、領域スキルを展開していても大丈夫なように調節したらしい。なのでこの大部屋の中なら、全力で領域スキルを展開していいそうだ。


「……。お嬢」

「なんでしょう」

「一応聞くが、何で半分だ?」

「灰色の装備は壊せない為、盗み取る必要があるからですね」


 こう、アライメント的な競合というか、事故が起きちゃうからな。だから半分だ。もちろん方向を絞らせない為に、時々移動するが。この大部屋は正方形なので、その辺は司令部がちゃんと指示を出してくれるだろう。

 もちろん私とアライメント的な意味で連携できない人達も、競合しない領域スキルを持った人がもう半分に上手く展開して、バフが入るようにしている。……事故が起きるのは種族特性だけなんだが、【領域強化】で強化されてるから、範囲が十分広いんだよな。流石に種族特性だけを別で操作するのは難易度が高い。

 それにどうやらここまでは無自覚だったんだが、領域スキルをまとめて操作しようとすると、種族特性も引っ張られてたみたいなんだよな。そして種族特性をOFFにする事は、少なくとも設定からは出来ない。


「全体連絡! 本体の引き寄せ完了まで残り30秒!」


 流石に種族特性だけを封じる魔法や装備、みたいな都合の良いものは無いし、あったとしても使わないだろう。少なくともプラスの効果が出る相手に対しては、ものすごく有用だから。

 なんてことを思いながらも私は周囲にバフを配っていたし、戦闘準備は出来ている。ちょっといつもより殺意が数割増しかもしれないが、ラスボスだからな。仕方ない。(目逸らし)

 まぁ実際、準備をしている今の時点で数割増しでも納得しかないからなぁ……とちょっと遠い目をしたところで、バキッ、と何かが割れる音が響いた。

 音源は、ここまでも散々あの部屋の一部だっただろう瓦礫を吐き出して来た、大部屋中央の床だ。そこには元々小さな穴が開いていたんだが、それが放射状にひび割れるような形になっている。そのまま穴自体が大きくなるように罅割れが増えていき、


「おぉおぁぁああああああっ!!?」


 バリン、と、ガラスを突き破るような音と共に、いくつかの家具と一緒に放り出されるような形で、自分の周囲に無数の魔法陣を浮かべたクズが飛び出して来た。そしてそれを最後に、小さな穴は消えてなくなる。

 がしゃどしゃと周囲に転げ落ちて壊れる家具はささっとどこかの召喚者プレイヤーによって回収され、受け身をたぶん取ろうとして、魔法陣に包まれたままべちゃっとクズが床に落ちる。

 一応バリア的な効果があるのか、シャボン玉に包まれたみたいな形でダメージは無いみたいだが、こう……いや油断は良くないな。大体人形を使ってくる場合、本体は人形より強いんだから。


「……あちらで対峙していた時と違って、領域スキルの効果範囲に入った魔法陣が壊れませんね」

「もう対応したのか」

「もしくは、対応してるやつを出して来たかかな」

「いっ……たくはないが! この、よくも部屋を滅茶苦茶にしてくれたな!」


 気のせいか、穴が閉じた瞬間に、ガキン、と鍵をかけるような音が聞こえた気もするが、それは恐らく「第一候補」の仕事なのでさておいて。

 一応はこの時点での差異を口に出すと、それは素早く伝わっていった。さっきの、部屋の中にいた状態では領域スキルを広げたら魔法陣は壊れていたんだが、今は普通に維持されている。

 ふわっとそのまま床から少し浮いたクズは、どうやら杖は手に取る事が出来たようだ。ただ、身に着けているアクセサリがほとんど無いのは変わらない。髪も大して編み込んでないし、そこにアクセサリが付けられている事も無い。


「単に身に着けている暇がなかっただけならマシなんですが、少なくともインベントリはある筈ですしね。自分用の装備を持ってないとは思えません。流石にインベントリに入れた状態で効果を発揮するって事も無いでしょうけど、いくらでもお代わりがある可能性はあります」

「了解」

「壊せない奴は、それ狙いの召喚者に任せればいいんだっけ」

「その予定です。もちろん指とかを狙えるなら狙ってもいいですけど」

「オッケー」

「なるほど」


 ぷんすこしながら軽装で杖を構えている様子は、まぁ強そうには見えない。が、それでもラスボスで……未だに名前が分かってないって辺り、何かありそうだからな。

 十分に気をつけていこう。

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