第2742話 73枚目:奪うもの
その後クズはあれこれ、自分と結婚したらどうなるか、まぁ主に遊んで暮らせるぞという内容を語ったのだが、それが全て奪ったもので賄われるという前提である以上私から返すのはノーの一択だ。
そうやって喋りながら近づいてきたからレイピアを抜いて突き付けたら、思いのほかあっさり下がったが。一応念の為、杖に近づいたら攻撃します、と警告したらそれ以上下がらなくなった。
で、どれほどプレゼンしても私の態度が変わらないと見たらしいクズ、うーん、と腕を組……もうとして私が切っ先を動かしたら、両手を上に上げた。
「困ったな。まぁ確かに血筋が良い条件を入れたのだからそれはそうなんだが。酒池肉林に興味のない竜族がいるとは思わなかった。慎ましくて良い。……いやまぁ慎ましいというのを条件に加えたな? なるほど栄華では興味を引けない筈だこれは困った」
もちろん私は最大限の警戒を続行している。……余程この部屋の守りに自信があるのか、焦る様子は無いな。そろそろ壁破壊にチャレンジしてみるべきかもしれない。壊せるかどうかは分からないが。
しかし、と若干思うのは、私の種族特性の範囲に入っている筈なのに、何の影響も出てないっぽいって事だ。ただ種族特性が負荷を押し付ける対象は、悪属性。すなわち、相手は最低でも中立って事になるんだが……。
……種族特性を無効化してる、って方向で考えたいところだな。もしくは私の能力が封じられているか。魔視でみた時に真っ黒だったし、封じられてる可能性の方が高そうだな。
「ところで嫁候補、神の妻の座に興味は」
「無い」
「だろうなぁ。永久の命に興味は」
「無い」
「竜族だからなぁ。新しい種族を作り出せる可能性があるが」
「いらない」
「まぁそれはそうか。精霊竜は調和を重んじる。大変希少な種族なのは良い事だが、つまらない事を大事にする種族だからなぁ」
……魔法だと無効化されそうだから物理手段でいくのは必須として、やっぱ今すぐ体術系スキルで床を割るべきか? もしくは封じられているかどうかの確認の為に、領域スキルを全力展開するべきか?
「調和など何の得にもならない、身を削るだけのつまらないものだろうに。奪われたくなければ奪うしかない。それが世界という物だ。だから全部奪って何も無くしてやれば、争う事も無いだろう。それが平和ってやつじゃないのか? 平和を声高に叫びながら争うよりは余程手軽で確実だろうに。力が無いから実行できないだけで」
呆れたように息を吐いて肩をすくめるクズだが、それは平和じゃなくて滅びって言うと思う。言わないけど。言っても無駄だろうから。
「無言は肯定! つまり同意してくれるというこ」
「それは違う」
「何故だ?」
「お前がやるそれは、ただ世界を滅ぼすだけです。滅んだ世界に未来は無い。奪う事しか出来ないなら、奪い尽くした後は飢えて死ぬだけですが。その程度も理解できない頭で世界を語るな」
と思ったんだが非常に不愉快な勘違いをされそうだったので否定しておいた。そりゃそうだろう。奪うしか出来ないなら、いずれ詰む。だから作り出す事が重要なんだ。
確かに手軽で効率的だろうさ。力の弱い相手から奪う事は。で? 奪って奪って、奪う先が無くなったらどうするんだ?
「未来がどうした? 奪う先が無くなったら、他の場所から奪えばいいだけだろう。実際、他の世界を見つけたしな。世界が滅んでも他の世界に行けばいい。永劫の栄光と栄華は既に約束されている。それが受けられる立場にいるのに、なぜ拒絶するんだ?」
「奪ったものに価値を感じないからですよ」
「……? 分からん。それが分からん。奪おうが作ろうが、ものの価値は同じだ。なら奪った方が圧倒的に効率が良い。世界は無数にあって尽きる事がないんだから、奪えばいいだけだろう?」
「奪われる事を知らないクソガキの妄言に巻き込まれるのは嫌です」
「当然だな。何しろ選ばれた種族であり、神に至るものなのだから。奪われる側に回る事はあり得ない」
うん。ちょっとそんな気はした。死んでも治らない奴だ。
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