第2741話 73枚目:突入異常

 で、飛び込んでみた結果。


「は?」

「なんっ!?!?」


 ……目の前に、何か、いるんだが……?

 装飾はずいぶん減ったシンプルな装いだが、近くに立てかけてあるブラックオパールの杖とか、真紅と灰の目とか、真っ黒い肌と髪とか、散々ボコされるのを見ていたのと同じ姿が、安楽椅子に座って何か本読んでたんだが……?

 ざっと周囲を確認するが、エルルの姿は無い。同時にここが、研究者系の人の完全な私室である事も分かった。本と酒瓶を一緒に並べてるのはどうかと思うが、マットとか机とかが全部1人分想定だ。


「いや待て侵入者がいるのは分かっていたがここまで来るにはまだ時間がかかる筈それにかかる時間を考えればシンカの方が先だから放置しても良かった筈だしそもそも不当な侵入なら罠が発動するから不当ではないつまり何かしらこちらへ呼び寄せる条件に合致したという事だから――」


 とか思っていると、ぱたんと手に持っていた本を閉じて脇の机に置き、何か大量の魔法陣を目の前に出して操作し始めるそいつ。あれがメニューの代わりみたいなものなんだろう。安楽椅子からは降りないのか。

 それはともかく、この部屋、窓どころか扉も無い。これは下手に壁に攻撃しても外に出られないか。空間的に断絶してる可能性が高い。魔視で見てもひたすら真っ黒に塗り潰されていて情報が無い。いっそ領域スキルを全力展開するか? と思ったが、反射されると即死しかねないな。

 部屋の中の灯りは、人形と同じ姿の奴の手元を照らす小さなものがあるだけだ。まず灯りかな。魔法使ったら反応しそうだが、灯りの魔法ぐらいなら問題ないか……?


「なるほど!!!」


 と思ったら、突然安楽椅子から立ち上がって大声を出すそいつ。思わずレイピアの柄を握って軽く刀身を抜き出しちゃっただろうが。いや相手の正体からすればこれでも警戒が遅いぐらいなんだろうけど。


「嫁候補か!!」


 ………………。

 は?


「なるほど確かに、血筋、身長、胸、属性、希少さに性格と見た目の乖離、魅了避けにこれでもかと達成不可能になる条件を付けた全てに合致している。これなら結婚してやっても良い!」

「自分で望んでロリコンになったんですかこのクズ」

「真っ先に出てくるのが否定か! 精神が頑健なのも条件通り!」


 ぞわっと鳥肌立った。こいつ魔族の王だとかそういうのを除いてもこの場で切り捨てるべきではって気がしてきた。


「ところでロリコンとは?」

「幼女性愛者の略称です」

「……。見た目が幼いのはそんなに悪いのか!? 竜族だろう、そのなりで既に数百年は生きているだろうに!?」

「私実年齢で24才ですけど」

「年齢的には丁度良いじゃないか! ……ん? 竜族で丁度良い?」

「なお【成体】になったのは実年齢で7才の時です」

「ほう、一桁で【成体】になったとは将来有望! ……いやっ、婚約者持ちか!? それも一桁で【成体】まで育てる程の!?」


 いやー以前ニーアさんに、竜族における婚約者とは何なのかって聞いておいて良かったよな。成長度合いの割に実年齢が低い=それだけ大切に育ててくれる婚約者がいるという牽制になる、っていう部分を。

 気付くのが遅かった辺りに気にしてなかったのか興味が無かったのか、自分最優先で他がどうでもいいという価値観が垣間見える訳だが……しかし良く喋るな。というかロリコンなのは魅了避けを含めても元々か。

 と思ったら、何故か嬉しそうな顔になるそいつ。今ので嬉しくなる要素あったか?


「素晴らしい! そんなにも大切に育てられた婚約者を奪う! これに勝る快感は無い! さぁ結婚するぞ!」

「嫌だよこのクズ」


 あぁ、これはクズだな。

 少なくとも私の価値観では論外だ。容赦する余地が無いって意味で、ラスボスだとするならそれでいいのかもしれないけど。

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