第2733話 73枚目:応酬の理由

 ラスボス相手のメインが「第四候補」に移ってからしばらく。使い魔を運用する分の魔力も賄う必要がある「第四候補」の魔力ステータスは高いし、最大魔力量も多い。だから息切れする事は無かったんだが、どうやらラスボスの方が先に我慢の限界を迎えたようだ。

 もちろんこちらを見下し舐めてかかっている分だけ手は抜いていたんだろうが、それでも魔法の応酬が成立している、魔法が全て相殺されている、その上で効かないとはいえ反撃されている。それはプライドが死ぬほど高いラスボスにとっては侮辱のようなものだったのだろう。

 再び響いた盛大な舌打ちに、周りを囲んだ状態のまま回復したりご飯を食べたりしていた周りの召喚者プレイヤー達が臨戦態勢に戻る。ほら休憩できるときに休憩しておくのは大事だから。


「粘液ごときが、頭が高い! 雑魚ども諸共、平伏せ!」


 怒りの言葉と共に、左手の杖が振り上げられる。そして、カァン! と高い音を立てて石突が床に打ち付けられた。

 瞬間、大部屋全体に襲い掛かったのは、重さだ。私は普通に耐えられるが、目立たない為に自分で一瞬早くその場にしゃがみ込む。

 というか、平伏せ、って叫びの時点で大体重力をかけてくるのは分かってた部分があるよな。正直、召喚者プレイヤー勢の大半はこの程度なら自力で耐えられると思う。今はラスボスを接待、じゃなかった、注意をこちらに引きつけておかないといけないから効いたふりをしているだけで。


「そーゆー事する奴は嫌われるぞ☆ ――[マジックイレイズ]!」

「な……粘液ごときが!?」

「悪口のレパートリーも少ないな。もうちょっと語彙増やそうぜ。教養ないって思われるんじゃね?」

「っっっ!!」


 なお「第四候補」は自分がヘイトを集めているのを良く分かった上で、少なくとも見た目は平然と耐えて見せた上で、重力魔法を正面からキャンセルした。更に煽るのも忘れない。更にラスボスのヘイトが集中したな。

 もちろん流石にラスボスの魔法を、正直に「第四候補」だけでキャンセルした訳では無い。そこここに混ざっている司令部の人がハンドサインを出す事でタイミングを合わせ、周囲の召喚者プレイヤーが同時にキャンセル魔法を使っている。

 同時に使う事で、魔力ステータスが加算される扱いになるからな。こういう持続型の魔法は大体の場合魔力ステータスの勝負になる。流石にレイドボスでもある(筈の)ラスボス相手に「第四候補」1人で対抗し、何なら上回るのは、流石にこう。うん。


「にしても、頭が高い、平伏せで重力魔法とか、テンプレな」

「分かりやすくていいんじゃね?」

「そもそもちぃ姫と大神官さんの方が上なのよね」

「まぁそれは世界征服を掲げる王様やし」


 こういう会話が聞こえるぐらいには余裕がある。その分「第四候補」が頑張る事になってるが、あちらはあちらで周りからこっそりバフが積まれている筈だしな。魔法は全部相殺されていてダメージは食らっていないが、魔力も周りから回復されている筈だ。

 というか、そうやって魔法合戦をしている間にも「第四候補」の血液武器はラスボスのローブをどんどん切れ込みだらけにしているんだが、あれにはいつ気付くんだろうな? そろそろ上半身は刺繍部分以外ズタボロだぞ?

 ……あれ? よく見たら血液武器というか、動き回るものが増えてるな。いつの間に増やしていたのか。思った以上にボロボロな訳だよ。


「と。別動隊より連絡です。周辺に設置してある回路から異界の大神の力を完全に抜き、その源を回収する準備が整ったようです。なおあの水晶玉のようなものにも異界の大神の力が使われているのだそうで、少なくとも弱体化はするだろうと予想されています」


 さてそんな風に「第四候補」が遊んであげている間に、別動隊はしっかり仕事をしてくれたようだ。少なくとも弱体化するって事は、あの水晶玉のようなものが維持できなくなる可能性もあるんだな。

 ようやく直接殴れそうだって事で、周りの召喚者プレイヤーのやる気が戻って来た。そうだな。長かったもんな、ここまで。正直私も、やっとかよ、と思う部分がある。ギミックボスだから仕方ないとはいえ、だ。

 その分もしっかり力を込めて殴るとしよう。……袋叩きの時間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る