第2732話 73枚目:応酬中

 そのまま「第四候補」はラスボスと魔法の応酬を始めたが、流石魔法型で鍛え続けてきただけはあるというべきか。少なくとも外から見る限りは割と余裕をもって相殺できているようだった。

 もちろんちょいちょい攻撃もしているんだが、そちらは水晶玉のようなものに当たって反射されている。相殺するのは手数の無駄だとばかりラスボスも無視しているし。

 人形の時の事を考えると、あの水晶玉のようなものはあらゆる攻撃を反射するんだろう。魔法も物理も関係なく。ただし。


「っ!?」

「あっれー、俺の正体見破っといてなーんの警戒もしてなかったとかー? 流石にちょっとそれは無いと思うんだけど、まっさかなぁー?」

「ふん! そういう事は傷の1つでもつけてから言う事だな!」


 当たり前だが、一応まだ生き物である以上はラスボスも呼吸をする必要がある。音も聞こえているし周りも見えている。つまり、水晶玉のようなものは全てを遮断するシェルターじゃない……「害が無い」と判定されたら通れるって事だ。

 なおかつその「害が無い」判定は、割とラスボスの意識に左右されるらしく。まぁつまり何が起こったかって言うと、魔法攻撃に紛れて「第四候補」が小さい血液製の武器を飛ばして一旦天井に当てて、そこから自然落下させる形で水晶玉のようなものを通過、直接ラスボスを攻撃した訳だ。

 人形の時もそうだったように、ラスボスも数多くのアクセサリを身に着けている。その内の2つか3つが突然砕け散ったから、かなり良い攻撃が入ったようだ。傷の1つでもつけてからとは。


「……気のせいでなければ、「第四候補」の血液武器、シャクトリムシみたいに動いて、ローブに無数の切り傷を付けていってるんですが」

「あれ、何回這われると死ぬんだっけ?」

「頭から足まで、つまり縦断されたらだな。尺取られるとってやつ」

「もう縦断ぐらいの距離は動いてる気がするんだけど……?」

「まぁ足元には達して無いし、そもそも都市伝説だからまぁその辺はこう」


 油断って良くないなぁ。気を付けよう。

 さて調子よく「第四候補」が挑発を交えつつ魔法による殴り合いをしているが、その間も時間は経過している。つまり「第一候補」がいる別動隊が、異界の大神の力、この大部屋を含めたこの空間全体に影響する回路へ流れ込んでいる分の源をどうにかする為の時間が稼げてるって事だ。

 あんまり時間はかけたくないが、ギミックの解除に時間がかかるのは仕方ない。その中でも最短になるように頑張ってくれている筈だし、この大部屋でやるべきは、そのギミックの解除に気付かれないようにラスボスの気を引く事だ。


『「第二候補」、もうちょっと我慢しましょうね』

『うぬ? 何の事じゃ?』

『こっちからは見えてるんですよ。魔法合戦に参加しようと「第四候補」の方に移動しているでしょう』

『……ダメかのう?』

『ダメです。一応あなた不死族なんですから大人しくしてて下さい。相手の警戒度が無駄に上がってギミック解除班の邪魔になります』

『うぬ、それを言われるとのう……』

『いいから元々の待機場所に戻って下さい。一定距離を置いて待機する事で全体攻撃への防御として備えるっていう理由もあるんですから』


 だから余計な事はしないようにな? と釘をさす。違和感があった気がして人垣の向こうに目を凝らしたら、そーっと移動して行く動きが見えたからウィスパーを飛ばしたら、案の定だったよ。大人しくしてろ。出番はまだだぞ。

 そもそも今適宜挑発してヘイトを維持してる「第四候補」だって、このまま封殺できるとは思ってないだろう。封殺できれば最高だとも思っているだろうが。ラスボスがそんな簡単な訳がない。フリアドだぞ?

 だから絶対出番は来る。それまでは待機だ。いいな? ……派手な魔法戦になってるから反応しそうだなとは思ったが、出来れば外れてほしかったよ。

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