第2731話 73枚目:狙われ対象

「……何か混ざってるな」


 さてそこからさらにしばらくして、流石に何かしらの違和感を覚えたのか、見下しと侮りのみだったラスボスの顔に、僅かに疑いの色が混ざった。

 魔法の連射は続けたまま、赤と灰の目でぐるりと周りを囲む召喚者プレイヤー勢を見回す。私はしっかり隠れているし、今追加で姿隠しとか気配消しの魔法をかけると逆に見つかりそうだ。

 出来れば世界三大最強種族の内2種竜族と不死族が混ざってる事にはまだ気づかないで欲しいんだが、と思っていると、ラスボスの視線がある一点で止まった。同時に、盛大な舌打ち。


「そこか!」


 次の瞬間、そちらの方向へと威力の高い魔法が叩き込まれた。今までを初級魔法とするなら中級魔法ぐらいか。最前線まで来た召喚者プレイヤー勢でも、割と本気で防がないと痛いだろう。

 とはいえ、割と本気であればノーダメージもしくは軽傷の範囲で受けられるって事でもある。ちなみに狙われたのは私じゃなかった。部屋の奥側で待機している「第二候補」でもない。


「おっとー!? あっぶねぇじゃん!?」


 それは同じく特級戦力として温存され、隠されていた筈の「第四候補」だ。これでもかと積み上げられて鍛えられた指揮系スキルで周囲の支援をしていた筈だが、一体何が引っかかったのか。

 ……いや、普通に考えれば特殊な指揮官がいるなら気付くだろうし、まず狙うか。何もおかしい事は無かったな。たぶん純粋な支援能力だと「第五候補」が一番強いけど、指揮官としての腕前込みなら「第四候補」の方が上になるだろうし。

 なるほどその指揮官が「第四候補」だと思った訳だな。……惜しいなー。実際はその辺に上手く紛れている司令部の人達だし、もっと言うなら元『本の虫』組の人達だ。そしてその指示は召喚者特典大神の加護による掲示板で出されているから絶対に感知できない。


「っは、死なない筈だ。大半はお前の眷属か? しぶといと思ったら実質死人の群れだったとはな」

「うわすげぇ。よくそこまで見事に掠りもしてない仮説を自信満々に語れるな。一周回って感心するわ。馬鹿すぎて」

「――――あ゛?」


 そして存在がバレた瞬間に煽って自分にヘイトを向ける「第四候補」の切り替えは流石だとして、眷属かつ実質死人って事は、あれか? 結局謎だった「第四候補」の種族って、吸血鬼だったの?

 でもミラちゃんと同じ系統ならそれこそ“夜天にして闇主”が何か反応するだろうし、あと2つのどっちかか。フリアドにおいて吸血鬼と呼ばれる種族は、そのルーツによって3タイプに分かれるんだが、1つは日光が弱点で“夜天にして闇主”によって生み出されたタイプ。ミラちゃんがここの突然変異だ。

 であと2つ。1つは確か蝙蝠系の魔物種族から進化するタイプ。これはニンニクが弱点だった筈。進化元の蝙蝠を無条件で従えられるようになる。そしてもう1つは銀が弱点で、血液を武器に出来るってロマン技が使える。その元になる種族は


「粘液の分際で!」

「はっはー、進化してもう【人化】いらなくなってんだよなー!」


 そう、スライムだ。フリアドにおいては割と強い方に属するが相応にレア度の高い、魔物種族としては絶滅してる可能性まで囁かれているスライム。

 ……あぁなるほど。だからあのスライムを召喚できる杖を使いこなすのが早かったのか? 使い魔と言えど同族補正は働くだろうし。そして確かスライムの中には、分裂して単独のまま群れみたいに動くやつがいるとも聞いた。

 サーニャが以前もう戦いたくないって言ってたのも、無数のスライムが合体して巨大になったやつだって話だったし。そうか、使い魔使役型の「第四候補」はスライムだったのか。長い事地味に謎だった部分が分かってすっきりした。

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