第2734話 73枚目:応酬の末

 ガコン、と、何かのスイッチかレバーが切り替わる音が聞こえた、気がした。


「な……っ!?」


 それが何を意味するのか真っ先に気付いたのは、まぁ順当にラスボスだっただろう。ぱっと上を見ると同時に「第四候補」への攻撃を止めて、左手の杖を自分の前で真横に振った。

 それに応じて、メニューウィンドウのようなものが展開する。が、それが展開された瞬間、ローブの上を動き回っていた「第四候補」の血液武器が巨大化、いや薄く長く伸びるようにして、巨大な爪のような形になってラスボスに突き刺さった。

 本人に突き刺さるだけではなく、身に着けていたアクセサリの脆い所も狙って壊している。結果、何十にも重なった破砕音と共に、一気にラスボスの纏う装飾品が減った。


「この、小細工をっ!」

「ちぇ、やっぱ異世界の大神の力があるやつは通常攻撃だと壊せないか。まー他は全部壊せたからそこそこ攻撃は通んだろ! 攻撃準備!」

「この、くそ、粘液ごときが!」

「悪口レパートリーそれしかねーの? つか進化して【人化】いらなくなったっつったじゃん。その程度も覚えてないとか残念な頭だなぁ?」

「きっさまぁああああああ!?」


 へいへーいとダメ押しで挑発する「第四候補」だが、その間にちゃっかり魔力の放出らしいもので吹き飛ばされた血液武器を回収していた。元種族がスライムだからか、血が集まってスライム状になって足元に戻る形になるようだ。そういう風に操作しているだけかもしれないけど。

 ちなみにダメ押しで挑発している間に周りを囲んだ状態の召喚者プレイヤー勢は全員攻撃準備を終えているし、部屋の奥側で、とんとんっと垂直に跳んでいる「第二候補」が見えていたから、袋叩きの準備は完了している。

 それに別動隊は当たり前だが動きを止めていないのだ。大部屋の天井の中央から、回路に流れていた灰色(力)が消えて行っているのが魔視によってみえているんだが、どこで気付くかな?


「斉射開始!!」

「ふん! 貴様ら程度の攻撃が効く訳ないだろう!」


 その灰色(力)が抜けていく範囲が壁に達するかな、ってところで、「第四候補」の攻撃指示が出た。あぁなるほど、攻撃をブラインドにするわけか。だから派手な魔法が叩き込まれて、精度の高い魔法は反射された魔法の迎撃にあてられてるんだな。

 ちなみに私は魔法の迎撃側で参加しつつ、全体のバフを更新している。ついでにこっそり壁系魔法の準備もしていた。私なら水晶玉のようなものを完全に囲える大きさが出せるからな。もちろん中の動きも見えなくなるから、魔法の迎撃で済むならそっちの方がいい。

 ……ただまぁ、よほど油断していたのか。それとも、水晶玉のようなものの性能を信じ切っていたのか。特に反撃も行動もないまま、灰色(力)の抜けた範囲は壁から床へと移っていき、力がチャージされていた板のような部分まで達した。


「ほんと、油断は良くありませんね……」


 なんて呟くのは、その板のような部分からみるみる灰色(力)が抜けていくのに、攻撃の向こうから高笑いが聞こえるからだ。水晶玉のようなものに無駄な攻撃を続ける私達がおかしくて仕方ないらしい。ここまでくるともはやギャグだぞ、ラスボス。

 あ、「第二候補」とサーニャが前に出てきたな。司令部の人が何か説明している。……灰色になった装備は通常攻撃では壊れない可能性が高いから、それをまず本人から剥がしてから攻撃した方がいいとか、そんな感じかな? 魔法の音で聞こえ辛いけど。

 で、司令部の人が引っ込み、板のような部分にチャージされていた灰色(力)がほぼ抜けきったところで、「攻撃停止!」の声が響く。反射された魔法を相殺する僅かな間を置いて、大部屋が静かになり、


「どうだ! 貴様ら下等種族の脆弱さが、貧弱さが、どれほど劣っているかが良く分かっただろう! 見ろ! 傷1つついてないぞ!」

「そうだね。傲慢の果てに何があるのか良く分かったよ」

「ここまでくると、もはやいっそ哀れじゃの」


 高らかに叫ぶその後ろから、サーニャと「第二候補」が声をかける。それに驚いてラスボスが振り返った瞬間に、回路に残っていた最後の灰色(力)が消えた。

 それはあの水晶玉のようなものへの力の供給が完全に止まった、という事であり。


 ガシャン、とガラスが割れるような音と共に、大量の血が舞った。

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