第2729話 73枚目:静かな開幕

 予想に違わず全力でこちらを見下してきていた本体、あの水晶玉のようなものが人形の時のバリアに相当するらしく、まだ名前は不明なラスボスとの戦いは、召喚者プレイヤー側の防戦一方、という幕開けの仕方をした。

 とはいえ防げているし、どちらかというと観察が主だ。ベルトに並んだ杖はともかく、今回は道連れ能力持ちのモンスターがいないからな。攻撃の完全反射がこっちにもある場合、下手に攻撃したら反射と追撃で大変な事になる。

 それに戦闘が始まったところで気付いたんだが、水晶玉のようなものを中心に、床に何か埋め込まれている。放射状に、下を長く伸ばしたトランプのダイヤのような形の板みたいなものだ。


「……何か、思ったより軽いな?」

「……そりゃ、第一段階の通常攻撃だからだろ」

「……余裕見せんなよ。解析完了まで」


 なんで埋め込まれてるのに気付いたかって言うと、ラスボスが魔法をばら撒き始めるのに応じて、その板みたいなものに周りの回路から灰色が集まってきたからだ。魔視でみえる灰色は異界の大神の力なので、何かチャージしてるって事だな。

 もちろん司令部は部屋の周りの回路の解析にかかっているし、防戦一方と言いつつ割と余裕はある。時々弱い反撃をするのも、本当に反射してくるかどうかを確認する為だ。

 何しろこっちを全力で見下し、侮ってるからな。そのまま油断していて貰った方が楽だ。なので、私はもちろん旗槍をしまって背の高い召喚者プレイヤーの奥に隠れているし、竜族部隊の人達を含むうちの子も、他の召喚者プレイヤーと仲間になってくれた『勇者』も、何なら魔物種族は皆引っ込んでいる。


「この程度の癖に、しぶとさだけは一級。これだから人間種族というのは下等で醜いのだ。散り際ぐらい潔くあればよいものを」


 はーぁ、とため息を吐くと同時にちょっと大きい魔法を飛ばしてくるラスボスだが、完全相殺した上でエフェクトが派手な無害の魔法をこっちで用意して結果を誤魔化しているのには気づいてないらしい。魔法に長けてる筈なのにな。

 なおそうやって面倒そうに魔法をばら撒いている間に、司令部は回路及び足元の板みたいなものを解析できたらしい。相変わらず仕事が早いな。


「えーと、水晶玉のようなものはこの部屋に設置された施設、足元の板部分は神の力をチャージする電池のようなもの。異界の大神の力は本人にも確認されるものの、外部に用いられている分の源は別室にあると推測され、そちらに別動隊を動かします。だそうです」

「りょ」

「もうちょい接待な」


 私はこそこそ支援しながら掲示板による連絡を伝える係だ。どうしたって目立つからな。しかし接待。まぁ現状そんな感じだけど。片手間でも下等種族程度は封殺できる俺スゲーってか?

 なお別動隊には「第一候補」が含まれているので、少なくとも神の力であれば何とかするだろう。今ここで出来るのは、雑な戦闘をしてラスボスの気を引き続ける事だからな。

 大部屋でこっちが相手を囲んでいる状態だと言っても、この大部屋自体は相手の領域に等しい。だから未だ地の利は相手にある。それこそ、部屋全体を問答無用で押し潰す魔法とかを使われるとそこそこキツいからな。


「……大体何が来ても防ぎますが、油断は良くないですからね」

「それな」

「ほんとそれ」


 目の前に非常に良い反面教師がいるからか、いつもより周りの人達の頷きが深かった気がする。そうだな、油断は良くない。地の利があって腹心が揃ってた状態とはいえ、召喚者プレイヤーの全力支援を受けた割と本気サーニャを相手に防衛対象を守り切ったんだからな。

 そこからある程度神の力を取り込んでいる以上、流石に弱くなってるって事は無いだろうから、うん。油断は、良くないな。

 知略まで含めて、全力で叩き潰そう。

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