第2727話 73枚目:現状対処

 壁の中に異界の大神の力を利用した回路が設置されていて、どうやらそれが空間的な揺れと共にマップリセットをかけている事が判明した。何人かミスって死に戻ってしまったようだが……まぁ、仕方ないな。必要な情報だった。

 通常空間が心配だが、こちらは時間の流れが更に加速されている。速攻で片付けて戻れば問題ない。そもそも、通常空間を放置すると言えるほどの時間も残って無いし。

 まぁともかく。その回路を検証班が解析した結果、どうやらその回路による中心に誰かが近づくと空間的な揺れが発生してマップリセットがかかるらしい。そしてその中心は、ずっと同じ座標にあるようだ。


「で、それを防ぐ為には回路に細工する必要がある訳ですが、私達の装備では一切傷がつけられません」

「そうだね? びっくりしたよ。壁ごと貫くつもりだったのに、あの槍と盾しか貫けなかったし」


 事情説明の為にエルルとサーニャを呼んだんだが、そこまで話したところでエルルは結論を察したようだ。すっと気配が薄くなる。ははは。逃げられないぞ。


「ただし同様に、相手にとって非常に重要な回路は、相手の装備では一切傷がつけられません」

「まぁそれはそうだよね。同士討ちは防ぐべきだし」

「ですので、例の壁を傷つけられる装備を加工して壁を剥ぎ、こちらの装備で攻撃して回路を寸断する、という形になります」

「なるほど! ……うん? 装備を加工して、なんて?」

「壁を剥ぎます」

「かべをはぐ」


 頭が痛い、って顔で額を押さえても、エルルもやる事になるんだから覚悟を決めて欲しい。

 大丈夫、武器を作っても壊すだけなのは分かってるから、武器じゃない。


「まぁ、剥ぐというか吹き飛ばすというか」

「姫さん。単語が物騒だよ」

「実際物騒なシロモノですし、ここの壁に使うのでなければ開発を阻止してるぐらいには危険物です」

「お嬢が止めるって相当危険なんじゃないのか」

「正直拷問具と並ぶぐらいにはエグイ傷痕になりますよ。だから決して壁以外には向けないように。いいですね」


 ただまぁそうやって縛りを付けたら何故かさらにエグイ武装になったんだが。これなら普通にバールのようなものの方が平和だったかもしれないぞ。壊す理由が魔力の流し込み過ぎだから無理だけど。

 司令部から預かってきてインベントリから取り出すのは、あの通路サイズの槍を私の腕ぐらいの大きさにしたようなものだ。分類としてはジャベリン、投擲専用の槍となる。

 ただしその穂先の内側にはびっしりと魔法陣が刻み込まれていて、当たった時の衝撃で発動する構造になっている。どういう理屈なのか、その衝撃が大きい程発動する魔法の威力も上がるらしい。


「……つまり、刺さったところで爆発する?」

「しかも、刺さった傷を広げる効果がついてる?」

「そうですね。どうやってか、元凶に散々くらわされた状態異常を再現したようで」


 まぁつまり、魔法的要素が入った徹甲榴弾だな。サイズがあれな分だけ威力の下限が大きいし、再現とはいえ餓傷の効果も乗るから、本当に酷い事になるけど。

 なお無機物に効くって事は、これ1つで街の防壁が壊し尽くせるって事だ。もちろん生産現場も生産されたものも厳重に管理されているし、今こうやって受け渡すのも場所を変えつつ司令部の人に立ち会ってもらっている。


「ねぇ姫さん。これ本当に使っていい奴?」

「気のせいか禍々しいんだが……?」

「今回だけです。時間が無い上に絶対に逃がす訳にはいかない以上、これしかないから仕方なくやるだけで二度目はありません」


 だから私は内部の魔法陣の詳細については知らない。どうやって組み合わせているのかっていう構造的なものも知らない。知ろうとも思わない。

 だってどう考えても、余計に苦しめる事になるし、壊さない方がいいものを壊す事になるからな。本当に今回の、この場だけだ。

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