第2715話 73枚目:チャンスに全力

 もちろん周りで見ている召喚者プレイヤーは小さな鼠、【人化】を解いたルディルに気付く。特に第一陣は顔の引き攣り方がすごいな。まぁ使徒作成イベントでユニーク扱いされてたのは有名な話だし、当時から続けていたら直接会った、もしくは巻き込まれたことがあるかも知れないし。

 で、そうやって気付いたら視線が向く。もちろん大体の召喚者プレイヤーはすぐ視線を逸らすんだが、流石にそれで誤魔化されてくれる程ポンコツではなかったようだ。

 再び盛大に舌打ちして、自分に何かくっついていて、それがこれでもかと状態異常を積み込んでいるのには気づいたのだろう。推定ラスボスは血を吐きながらも一度左手の杖を大きく振って、ぶわっと何か、波動のようなものを周囲全体に放った。


「雑な全体攻撃ですね。しかし、自爆する程の根性はありませんでしたか」

『ただいまぁ~』

「おかえりなさいルディル。大変良い仕事でした」


 ただし、その周りを攻撃準備を終えた召喚者プレイヤーが囲んでる、っていうのは、ちょっと意識の外だったようだが。

 文字通りの袋叩きにされても一発も攻撃の反射が来ない。すなわち本体に攻撃が通ったというのを確認しつつ、しれっとそれらの攻撃が着弾する前に戻って来たルディルをよしよしする。体力バーが見えていたら、少なくとも数割は吹っ飛んでいた筈だ。ナイス痛撃。

 というか今度は回復する前にあれだけの攻撃が叩き込まれているし、気のせいでなければ神の力を借りた回数制限付きの大技も含まれていたが、下手すればこれで体力全部吹っ飛んだんじゃないか? ってぐらいだな。


『…………お、おのれぇ!!!』


 あ、生きてた。

 しっかりと一発だけ攻撃して何が来てもいいように備えていた召喚者プレイヤー達の前で、残っていたエフェクトや効果を土埃の方に吹き飛ばして、再び推定ラスボスが姿を現す。

 どうやら身代わり装備はしっかりその役目を果たしたらしく、アクセサリは既に数える程だが、本人とメイン装備はほぼ無事だ。ほぼっていうのは、装備回復の杖と、杖を下げていたベルトが無くなっているからだ。


「誰が持って行ったんです?」

「司令部は把握しているので問題ありません」


 カバーさんに確認するとそんな答えが返って来たので、まぁ、素早さと手癖の悪さに自信のある誰かがとっていったんだろう。もしかすると、髪飾りもいくらか誰かが持って行ったのかもしれないな。物によっては引き抜くだけでいいだろうし。

 怒り心頭という感じの推定ラスボスだが、右手を腰にやって驚愕の顔をしていた。気付いてなかったらしい。これでもう装備の回復は出来ないな? もしくはそういう魔法があるのかもしれないが、手番1回分は使うだろうし。

 ギリっと歯ぎしりしながら周囲を睨みつけるが、生憎それで怯むような召喚者プレイヤーではないんだよな。むしろ、はっ、と鼻で笑い返したり、わざとらしく噴き出したりしている。


「……戦い慣れは、してないんでしょうか。あれだけ戦争してた癖に」

「自分が最前線に出る、という事は無かったかと」


 それらの煽りに対し、ぶちぶちぶち、と血管の切れる音が聞こえてきそうな感じの推定ラスボスだが……そんな事をやってる間に、既に数秒が経過してるんだわ。

 数秒あったら、まぁ、上級魔法1発ぐらいの詠唱は終わるし、相手が動かない以上、実質攻撃は叩き込み放題となる。痛みさえなければ。

 つまりだな。


「ふむ? 思った以上に手ごたえが軽いぞい?」


 土曜日の夜って事でしっかり参加していた「第二候補」によって、微塵切りぐらいにはされる訳だよ。

 途中までは再生力とか、それこそ死を肩代わりする装備があったのかもしれないが、「第二候補」相手に実質棒立ちで数秒も時間を与えたら、そんなもん無いも同然だ。

 丁寧に残っていた装飾品や身に着けていた装備、手にした杖も含めてバラバラにしたらしい「第二候補」。が、何か不穏な事を言っている。軽いとな。



 ……まぁ、思った以上に楽勝な気がするな、とは、私も思ったけど。

 実際、バラバラになった推定ラスボスは、血の一滴も流さなかったし。

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