第2714話 73枚目:攻撃チャンス

 どうやら同じ効果を持つもの同士の相乗効果はかなり大きかったらしく、途中から壊れる音が2つ以上同時に聞こえていた。まさに加速度的ってやつだ。そしてカバーさん曰く50個目の破壊音が聞こえたところで、身代わりはそれで終わりになったようだ。

 盛大な舌打ちと共に、忌々しい、という感情を隠しもしない推定ラスボスは、右手で腰のベルトに下げていた杖の1つを引き抜いた。先端に、真っ白になる程クラックが入った水晶を嵌め込んだ黒い木の杖だな。

 その先端を向けられた先から即座に召喚者プレイヤーが退避したが、そこから魔法が飛んでくる事は無い。というか、左手の身長と同じくらいの杖を振りかぶっている。ん?


「あー……身代わりアイテムの復活効果……」


 バキッ、と音がして、クラックだらけの水晶が粉々に砕けた。瞬間ぶわっと推定ラスボスを光が包み、それが収まったら、両手と髪飾りの内、壊れていたアクセサリが完全に元通りになっていたのだ。

 ふん! とばかりに鼻息を吐いて、先端の水晶が無くなった杖をベルトに戻し、元の行動パターンに戻る推定ラスボス。んー? 先端の宝石が無くなってもベルトに戻すってことは……まさか、あの杖そのものも復活するとかか?

 なるほどこれは面倒。……と、言う所なんだが。


「主、あーるじ」

「ごしゅじん見て下さいー!」


 たぶんな。あの、装備が回復した一瞬。本当に瞬間的に、あの何でも反射するバリアみたいなのが切れたと思うんだ。その瞬間に攻撃しても、着弾までに復活するぐらい短い時間。

 ただ、まぁ。うちには、非常に。非常に素早い使徒生まれの子がいる。で、その非常に素早い2人が、褒めてーっとばかりに大変ご機嫌で戻って来た。


「とれた」

「持ち主制限はないみたいですー! これで壊れちゃう装備も使い放題ですねー!」

「2人共、よくやりました。大手柄です」

「むふー」

「間に合って良かったですー!」


 うん。その一瞬でバリアが消えたのに気付いて、ルシルとルチルが、それぞれ1本ずつ、ベルトに下がってた杖を掠め取って来た。もちろん全力で褒めるさ。よしよしにハグもつけるぞ。有能が過ぎる。

 まぁルチルはともかく、一瞬バリアが途切れたらそのまま首を狩ってきそうなルシルが杖を掠め取る方向にいったのは正直意外だったが、冷静に考えればそんな事は無かったな。何しろ相手は、状態異常の身代わり装備を復活させて、その瞬間に防御が解けるんだから。

 何故かって? うちの子に詳しければ分かる話だ。何故なら非常に素早い使徒生まれのうちの子は、もう1人いる。


「総攻撃準備!!」


 ルシルとルチルをよしよしはぐはぐしたところでカバーさんもそれに気付いたらしく、声を張った。何事? という顔をしつつも速攻で大技の予備動作に入る辺りが最前線に慣れた召喚者プレイヤーだな。

 で、私が2人を離すと、ルチルはもちろん攻撃準備に入ってルシルは姿を消してハイドアタックの準備に入った。推定ラスボスは余裕そうに笑っているが……。

 今まさに、カバーさんの号令を聞き取ったように。そのバリアっぽいもの、音は通すんだよな?


『!? が、は……っ!?』


 恐らくきっちり50個分、復活したばかりのアクセサリが一度に壊れる音に混ざって、推定ラスボスが血を吐いた。驚愕してるけど、いいのか? そのまま放っておくと、たぶん死ぬぞ?

 まぁ私としてはそちらの方が楽なので問題は無いが。と思っていたら、自分の指に噛みつく推定ラスボス。いや違う、指輪についてた石を口で外して飲み込んだのか。

 どうやら全回復する薬だったらしく、息を吐く推定ラスボスだが。


『なん……!?』


 再び盛大に血を吐いて、信じられないという顔になった。血走った眼で周りを見るが、外からは何もしてないぞ。攻撃準備はしてるけど。

 ……まぁ隠密スキル全開で、編み込んで装飾品をこれでもかと飾って重くなった髪の、首筋近くに乗ってる手乗りサイズの鼠に気付くのは、そりゃー難易度高いだろうけどな。

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