第2710話 73枚目:接触目前

 通路は狭いから分散した、と言っても、同じ空間の一点に集まるという都合上、どうしたって進むにつれて一度に動く人数は増えている。ただそこは「第一候補」達儀式組の工夫なのか、それとも距離を延ばす拡張をされていた空間の方向性を変えたからか、だんだんと通路は広くなっていった。

 案の定ルイシャンにミラちゃんが乗り、【人化】を解除した使徒生まれ組が集まっている状態は可愛い好き召喚者プレイヤーの視線を集めていた。スクリーンショットを撮る音が聞こえていたら、きっと他に何も聞こえなくなっていただろう。

 同時に私に対して「ミラちゃんと一緒に乗ってくれないかな」という感じの視線も集まってくるが、私がルイシャンに騎乗してもまだ完全版じゃないんだよな。何故ならルイルがいないから。マジでどうにか迷子癖の矯正をしたいところだが、何で迷子になるのか全く分からないんだよなぁ。


「先行したパーティから、モンスターが出現したと報告がありました! 討伐時に攻撃参加者へ3種から5種の状態異常を強制付与し、その中には推定“呑”むのものと思われる状態異常も含まれるとの事! 十分に注意して下さい!」


 と、思考が脇に逸れている間に、やる気や装備その他によってスピードが出ていた召喚者プレイヤーのパーティが、ここまで出てこなかったモンスターと遭遇したようだ。討伐時に、という事は、倒す事自体は出来たんだろう。

 相変わらず状態異常の強制付与は発生するようだが、痛み分けではなく道連れになっているだけまだマシか。確定で“呑”むに由来すると思われていた、完全に直さないと傷が広がっていく&ダメージを増やした上にその状態異常を追加するやつが確定してないのも比較的朗報だ。

 その報告が来て割とすぐに私がいるところでも遭遇したが、見た目は普通のモンスターだった。強さは普通より上だったらしく、1人の1撃でとはいかなかったから複数人が参加したが、この場にいる全員が参加する必要は無いな。


「防げない毒って、本当に厄介だね」

「俺らへの対処としちゃ間違ってないがな」


 と言う訳で、私は状態異常の解除を含めた回復で参加だ。オーバーヒール推奨だから、回復の手はいくらあってもいいからな。領域スキルを展開出来ればもっと回復できるんだが、今一応儀式中だから。後方で「第一候補」が。

 さて先行してくれたパーティからの情報も含むと、どうやら迷路としてはそう難しい形でもないというか、行き止まりが無い形になっているようだ。たぶん「第一候補」が頑張っているんだろう。

 元々、残り距離半分の所で空間を広げて時間稼ぎをしていた相手だ。罠があって道連れ能力持ちのモンスターがいたとして、本気を出した召喚者プレイヤーとその仲間の大集団を止められる訳もない。


「……、悲鳴ですね?」

「悲鳴だね。たぶん召喚者の」

「悲鳴だな。どっちかっつーと文句寄りの」


 集団での動きを前提として、ステータスの暴力で振り切ってしまわないようにゆっくりめに進んでいる私達でもそれなりの速度が出ている。だから先行している集団がいくつもあるのは想定内だ。

 だから司令部の人から「空間の中央に大部屋確認との報告がありました!」と情報共有された直後ぐらいに、私、サーニャ、エルルが推定召喚者プレイヤーの悲鳴を拾ったのは、まぁ、そりゃいたんだろうなって感じだが。


「ニーアさん、分かります?」

「大丈夫です、把握しました! どうやら相手は物理攻撃も魔法攻撃も反射する上に、その威力を倍以上に増幅するようですね! それを解除できそうな仕掛けも大部屋の中には無いと! どうしましょうか!?」


 酷いな。いやまぁラスボスなんだから理不尽能力ぐらいは挨拶なのかもしれないが。

 といっても、周辺探索はもうやり尽くしたというか、移動中にも調べられる範囲は調べてるだろ? 部屋の中にはそれっぽいギミックはないらしいし、どういう事だ?

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