第2699話 73枚目:居場所不明

 さっきの雷の雨にはルイシャンも参加していたので、あれだけ雷を撃ち込んだだけあってある程度蒸発して量が減っていた津波を防御し、引いていくのを見送ったところで戻って来た。そしてぐりぐりと額を私にこすりつけてくる。体はでっかくなってそこらの馬じゃ勝負にもならなくなったが、甘えんぼなところは残ったんだよな。可愛いかよ。

 ブラッシングしたくなるのをぐっと耐えて、うりうりうりと撫でくり回すだけに留める。そう。今から絶賛ラスボス戦だからな。気を張り過ぎるのはダメだが、気を抜き過ぎてもいけないから。

 で、引いていくのを追いかけるような形で建築担当の召喚者プレイヤー達が飛び出したのを追いかけ、それなりの距離を置いて始まった建築作業をすり抜け、その前に出る。


「波は何度かこっちに来る筈ですからね。建築現場を守りつつ前線を上げていきますよ。またモンスターの群れぐらいは出てくるでしょうし」

「波が来なかったら?」

「その時は何か出てきたって事でしょうし、その対応をしながら建築現場を守りつつ前線を上げていきます」

「やる事は変わらないんだな……」


 まぁ他にやる事ないというか、それが現状想定できる中で一番手堅い手だからな。もちろん何が出てくるかによるし、出てきたものによっては全力で攻撃に回る必要があるが。

 とはいえ、まさか本当にあの津波で終わりって事も無い筈なんだが……? と思いつつ、去っていく波に洗われていく大地の向こうに目を凝らす。とりあえず今のところは何も無い。

 あれだけの海水が流れ込み続けていた何かが無くなったか塞がったから、海が元に戻ったんだろうし。とすると、その原因は何だって話なんだが。


『全体連絡! 津波の第二波が来ます! 防御態勢を取るか高所へ避難して下さい! 繰り返します!』


 しかし何も無いな、と思いつつ地平線を見ていると、そんな全体連絡が響いた。土とか氷とかの壁系魔法が立て続けに設置される。これで防げるし後で撤去する手間も無いんだから、魔法って便利だよな。

 さてそんな感じで3、4回津波を防ぎ、その間に更に砦と防壁1つ分前線を上げたところで、イベント終了まで残り約5時間半。既にかなり厳しい訳だが、まだレイドボスの姿が見えないってどうなってんだ?

 と、いうのはベテラン勢も思っていたらしく、掲示板がかなりざわざわしている。だよな。どうやら再び「家」を建てたり海岸線に沿って探索したりしている召喚者プレイヤーがいるようだが、そちらも特に効果があった訳では無いらしいし。


「……他の大陸の方に何かあったという訳では無いようですし、あと探せていないのは海の中ぐらいですが、あの津波の直後で何かあるとも思えませんし……」

「どうしたお嬢」

「あ、もしかして敵の居場所?」

「はい。海が元に戻ったのなら、それに理由がある筈です。元凶が倒せたとは到底思えない以上、無関係と言う事は無い筈なんですが」


 ちなみに、魔視の強度を上げて海の方を見ても特に変わった色(力)は無い。しかし残り5時間半、もしかしなくても、直接戦闘は一番短いレイドボスになるんじゃないだろうか。出現して倒せれば、だが。

 いや。いやいやいやまさかまさか。本気も本気で、あの時のゲート部屋戦闘とその後の爆発で、終わり? まさか。フリアドの運営だぞ?

 それにそもそもシステムメールはちゃんと届いている。もしあそこで倒されたのが既定路線だというのなら、こっちに戻ってきた瞬間に、出現メールだけではなく討伐成功メールも届いてないとおかしい。


「結論、空間操作系の技量が高いと厄介ですね」

「……そうか。空間的に隠れると分からないのか」

「あー」


 っていう事になるんじゃないかな、と。そうなんだよな。空間的に隠れられると、見つけ……られない事は無いっていうのがあの鍵の保管庫で分かっているが、難易度が跳ね上がるのは確かだから。

 今も観測班が可能な限りあちこちを探して回ってくれている筈だが、まだ見つかってないらしいんだよな。推定最後のレイドボス。

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