第2698話 73枚目:残り4分の1日

 どうやら痛み分け能力持ちのモンスターに対する正解は、壁系魔法や罠系魔法の設置という事になるようだった。相手が突っ込んできて倒されるんだったら痛み分け能力発動しないんだってさ。

 残り10分と全体連絡が来ていたから、その間に少しでも前線を上げておきたいっていうので、私も精霊さん達に頼んで壁系魔法の塊を出したりしていた。流石に最後の大陸の東端だと、地形的に尖っているからまだ範囲が狭いんだよな。

 それに精霊さんの力に引き寄せられるっていうのは変わらないらしく、精霊さんに頼んで出してもらった壁系魔法には向こうから突っ込んでくるっていうのも分かった。司令部によって素早く情報が共有されたから、割と捗ったな。


「まぁモンスターの群れのせいで、建てられていた「家」は1つ残らず壊されているんですけど」

「元々土地を取り返す時に壊すものだったろ」

「異世界とはいえ、新しい神様の神殿は大丈夫だったの?」

「そちらは砦と防壁して3つ分後ろだったので、ギリギリ1つ目で耐えた現状大丈夫です」


 さてそんな訳で、砦と壁(修復率8割)の前に精霊さんに頼んだ壁系魔法を並べて簡易の壁にして、更にその前に主力が出ている形だ。もちろん直接戦闘すると痛み分け能力が痛いので、壁系魔法の設置は続いている。

 自分達の前に設置しながら後ろにも追加する事で、簡易の壁を強化している形だな。これで後ろの壁を分厚くしておくことで、一時撤退する事になった時に少しでも時間を稼げるわけだ。

 ……とはいえ、ここまでやっても強制的に押し付けられる状態異常ってどうなってるんだろうな。この大陸に突入する時から思ってたけど。だって何をどうやったって防げないって、ちょっと酷いだろう。最初の内は耐性不足かと思ったが、『勇者』になったエルルとサーニャにもダメージが通ったって時点で既におかしいとは思ってたんだけどな。


ドパァン!!

「来ましたね」

「……一応かなりでかい水柱なんだが?」

「あれが降って来て津波になったらこっちにモンスターが流されてきますね」

「冷静に言ってる場合じゃないよね!?」


 と言われても、ここで後ろに下がったり上に逃げる訳にはいかないからな。というか、だからここで留まってたんだし。モンスターが実質的に質量兵器になって叩きつけられるのは分かってたことだ。どこから湧いてるのか相変わらず分からないが。

 もちろん大規模攻撃で津波諸共吹っ飛ばす訳にもいかない。実行者が死に戻りする前提で実質人柱になるなら別だが、残り時間を考えれば被害と言う名の戦力低下は避けるべきだ。

 では、実際どうやって津波に押し流されたモンスターの群れって言う質量兵器を、防御または無力化するかっていうと。


「あの痛み分け能力は、直接攻撃した場合にのみ発動します。なら――海水を対象に攻撃して、その余波でモンスターが殲滅できれば、問題は無い筈です」


 そう言いつつ念の為に通常の防御魔法を張り巡らせたその前で。



 一面、雷の雨が降った。



「…………あぁ、なるほど。海水か。海水な。確かにこれなら、直接当てなくても全部巻き込めるし、波で流されてくるモンスターはきっちり倒し切れるだろうから、後は波だけ防げばいいんだな」

「うわぁ……本当に何というか特にこういう非常時だと、一部の召喚者の思い切りがいいよね……」


 まぁつまり、津波を帯電させて、触れれば焼かれる広域殲滅「罠」に変えてしまおうって話だ。東側の海全体にかなりの量の電気が流れ込む事になるが、たぶん全世界を覆う程では無いし、流れ的にモンスターの群れを焼き尽くせば尽きる。と、思いたい。

 そしてエルルが予想した通り、帯電しているとはいえ結局ただの海水だ。もちろん津波を甘く見る訳では無いが、大量の痛み分け能力を持ったモンスターが含まれている時とは比べ物にならない。体積的にも重量的にも。

 まぁそれに、ここで雑魚モンスターが一掃されるのは既定路線だ。フィールド変更の余波程度で、目立つほどの消耗はしてられないだろう。何せ、本体はこれを凌ぎ切った後、凌いだ前提で出てくるんだから。

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