第2696話 73枚目:託す手段
いやぁ……こう……。
「怖かったですね……」
「圧が強かったな」
やっぱり聞かれていたらしい。今の会話はどういう事でしょうか? と、穏やかだが有無を言わさぬとはこのことかって感じだった。
もちろん嘘を吐く度胸もリターンも無いので、かなり未来の違う世界線から来たことまで含めて説明する事になった。神に近い御使族はその辺り、荒唐無稽に聞こえてもすっと信じてくれるからありがたい。
で、説明した結果。
「にしても、そういうのってありなんでしょうか」
「分からんが、出来なきゃ嘘になるからな」
「ですよね」
どうやら、その。時間を超える神の奇跡を願い、この国がこうなる前か、“呑”む及び世界規模スタンピートが発生する前の過去に伝言をして、未来で消滅している範囲の神殿を巡って神器を回収するように伝える、ん、だって。
何でも御使族の街がある、聖地と呼ばれる島には、そういう用途で使う為の、普段は絶対に触ってはいけない空間がいくつかあるらしい。神の奇跡によって神を通して管理される空間であり、触れる人数も極限られているとか。
もちろんこの結果が反映されない可能性は高い。それはそうだ。いくらこの空間において異界の大神の分霊を救出し、この時代の御使族に連れて帰ってもらったところで、私達が戻るべき未来には既に“呑”むが出現している。そこは変えられない。
「まぁ私達は、まだ“呑”むそのものには遭遇していませんから、何か変化する余地が残っていると言えば残っているんですが」
「それでも他の「モンスターの『王』」の討伐には成功してるし、そもそもあの量のモンスターで出た被害は変わらないんだろ?」
「歴史が変わってしまいますし、被害が出てないと私達
前提が変わってしまうからな。たぶん、そこまで大きくは変わらない。というか、変えられない。
まぁ、限界はある。それは分かっていた事だ。なのでそれは考えても仕方のない事として。
「捜索に使った時間が……それでも3時間ぐらいですか。一応誤差と言えますけど、誤差に泣かされる事もありますし油断は出来ませんね」
「……戻ったら何かあるのが確定なんだな」
通常空間で10分か。ほんと時間の加速倍率が大きいな。助かるんだけど感覚は狂う。それをいつもの事としてリアル側で感覚調節をするとして、これで残り丁度6時間半ぐらいか?
「ではエルルは全部終わったと思います? 空間と魔力の扱いに長けた種族特性を更に伸ばし、時間にも干渉できるようになり、実際異世界に干渉していた種族の長ですよ?」
「少なくとも、どっかでどんな形でか生きてはいると思う」
「そういう事です」
そういう事だ。まぁメタ的に消化不良が過ぎるっていうのもあるけど。
たぶん、通常空間に出て既に存在している“呑”むと融合もしくは入れ替わりになってるんじゃないだろうか。恐らくリアル時間基準であの爆発が起きたのと同じタイミングで。
少なくともナージュのところから戻った段階では、ルイルは散歩してたぐらいだから緊急事態は発生していない。だから何かあったとするならその後だ。
「この時間軸のどこかにいたとしても、1万年もあれば力を蓄えるには十分でしょうし」
「……まぁ、そりゃそうだろうが」
「それに大神の力を多少なりと取り込んだとはいえ、信仰も世界も健在な本来の大神の力に勝てるほどではないでしょう。そしてその辺に干渉できるなら、どうせなら戦力がある本来の時間の先に出現させる筈です」
「……まぁ、それもそうだろうが」
そもそも元凶を直接殴る機会ぐらいは用意してくれないと、暴動が起きかねないからな。苦情メール殺到って形の。
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