第2695話 73枚目:達成不可能

 ボックス様の有難みを少なくともベテラン勢は知っている。最後の大陸の失われた範囲も大体分かってるって事で、それこそ人海戦術で捜索が行われた。

 なおその途中で現代では零細とされていた神の、割としっかり作られた立派な神殿が見つかったりそこで歴史的資料が見つかったりとそれなりに成果もあったから、参加者はどんどん増えて行った結果、最終的にほぼ全員参加になっていた。

 で、最終的にボックス様の神殿も見つかったんだが。


「何故!!!」


 思わずルイシャンから降りて地面ドンをせざるを得ない。何故なら、ボックス様こと“神秘にして福音”の神の神殿は、この国の「外」にあったからだ。つまり、今の状態だと遠目に見るのが精一杯。

 もちろん地面ドンでも私が本気でやると地面が割れてしまうので加減はするが、どうして!!?

 ちなみにベテラン勢は私のそんな様子を見ても「ちぃ姫またやってる」「まぁあの神の事だもんな」と流す感じだ。いやぁ慣れてくれて助かるよ。


「その前にお嬢は、せめて人前だけでもその辺抑えるとかだな」

「流石にこれはちょっと受け止めきれないので無理です。無理でした」

「そこで言い切るどころか過去形なのが姫さんだよね」


 まぁこの場所での事は通常空間に引き継がれない。そういう意味では少なくとも、神器を持って帰る、なんて事は出来なかっただろう。恐らく“呑”むとやらになってしまった過去の大神の分霊に、神殿ごと吞み込まれて消えたのだろうし。

 エルルに声をかけられた時点ですでに立ち上がっていたし、それに答えた時点で皇女ロールは持ち直していた。一瞬ぐらいいいだろ。それだけショックだったんだから。

 と言う訳で、本来のボックス様の神殿へ参る事も、そこに祀られている筈の神器の確認もできなかった。残念だが仕方ない。本当に残念だが。運営を恨んでも仕方が無いし。


「でも、ミニボックスだっけ。それはボクもちょっと見たかったな」

「……お嬢があの神の事で嘘を言う訳も無いと思うが、本当にそんな神器があって大丈夫なのかとは思った」


 私が立ち直った辺りでサーニャが口に出し、エルルがちょっと斜めの方向の懸念を挙げると、周りの召喚者プレイヤーや竜族部隊の人達もそのどちらかに同意を示していた。あぁうん、それはまぁ確かに。

 移動中にカバーさんへ説明し、そこから司令部経由で希望者に伝えられた、ボックス様の神器『ミニボックス』。その効果。もちろん確実にあるって訳では無いんだが、ボックス様がこの世界に来て、世界に馴染む為に祀る対象として設置するならこれだと思う。

 というか、ボックス様っていう通称と『ミニボックス』って神器の名前を考えれば、大体その効果も分かるってもんなんだよな。何故ならボックス様なんだから。それはそう。


「必要なものが出てくる箱かー」

「あれか? 最初のレイド戦のご褒美のあれ」

「あーなるほど、あれな」

「サブ武器だった俺、今も現役な件」

「なんだと? まぁ俺もだけど」

「コインネックレスだったんだけど、1人対応されてから強化試練に突っ込んだわ」

「……勝ったん?」

「もち」


 何か一部強者がいるが、まぁそういう事だ。なお「必要なもの」であって「欲しいもの」ではないので、本人の望みとちょっとズレる事はある。特に欲望に塗れた状態だと乖離が酷い。例えば、財宝が欲しい! だと、たぶん金策に良い試練を作れる箱庭作りパーツ一式が出てくる。

 逆に何をすればいいか分からないとか、どうすればいいのか分からないって人にはいいだろう。そういう意味ではボックス様というよりは“ナヴィ”さんの分野に近い。違うのは方法論では無くて物が出てくるって事だが。


「私もそれっぽい記述から推測しただけですけど、たぶん「道具箱」を受け取ったボックス様が、とりあえず試運転と言うかお試しと言うか、そんな感じで力を使って作ったものの筈ですからね。ちょっとズレたり“ナヴィ”さんの権能が混ざるのはあり得ることです」

「…………。なぁお嬢」

「なんでしょう」

「それって、かなり大事な神器じゃないのか?」

「大事だと思いますよ。だからこそどうにもならないと知って表面皮一枚とはいえ取り繕えなくなった訳ですし」


 あれ、エルルが質問してるのにこっち見てない。でも顔は引き攣ってる。おっと? もしかして聞かれるとまずい誰かに聞かれたか? 例えばこの時代の御使族の人達とか。

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