第2691話 73枚目:努力のかい
「お嬢」
「どうしました?」
「色々と言いたい事はあるが、とりあえず、それでいいのか」
「……ここの仕組みから分離出来て大人しくしてそのまま離脱まで上手くいきましたから、結果だけ見ればいいどころか完璧なのでは?」
正直に答えると、エルルはがっくりとうなだれてしまった。まぁ気持ちは分かる。私もちょっと顔が引きつったからな。最初は。
さてさっきまでゲートの真上に作られていた隠し部屋で、敷き詰められた魔法罠と魔力による仕掛けをどうしたものかと頭を悩ませていた私とエルル(と司令部)だが、現在は城の限りなく外、司令部が力場的に安全を確保した場所まで下がっている。
脱出の時はちょっとひやっとしたのだが、かなり本気モードに入っていたサーニャがすかさずゲートを維持しているらしい魔法陣に攻撃を入れて気を引いてくれた。……しかしあのかなり本気モード、もしかして私とエルルが突入してるのを察してたのか?
「……いいのか、それで……」
「ほらエルルうなだれるのはともかく手を動かしてください。うちに来てた時より本体に近いのか今でもギリギリなんですから」
「いや、そもそもお嬢も何でこんな大量の食糧を持ち込んでるんだ。第一あの部屋で出したあの水筒、俺らでも食いきれるか怪しいあのスープだったよな?」
「何があるか分からない前提で、色々用意してきましたので」
「それこそ連合軍を数週間は支えられるだけの食糧は色々か?」
うん。そうなんだ。
どうもあの、こう、磔と言うか何というか。あんまりな状態になっていた異界の大神の分霊がそれっぽく見えなかったので、司令部への中継動画撮影はそのまま継続しつつ、視界の外でインベントリを操作して、あの説明文にすら「お腹ははちきれかねない」と書かれた薬膳スープを入れた、内容量ちょっとした給水タンクになってる水筒を取り出したんだよ。
そして蓋を開けると、まぁ良い匂いがぶわっと広がる訳で……気付いたら、正面に見えている筈の早贄分霊と全く同じ姿形の分霊が、私の手ごと水筒にかじりついていたんだ。
なおその時私はエルルに抱えられている状態であり、エルルは床の罠に触れないように極小の空気の足場に乗っていたので、私達が知っている姿より一回り大きいと言ってもやっぱり小柄な大神の分霊は、ぷらーんとぶら下がる形になっていた。
「いやぁ流石大神というか、これが前回のボーナスタイムの効果なのか、時間が遥か過去の空間の筈なのに私達の事を覚えてくれていて良かったですねぇ」
「俺達をと言うか、俺達が作って食わせた料理を、じゃないのか」
「食器とか家具とかそれこそ私とかは食べてませんし」
灰色の子供の姿を取る異界の大神の分霊が釣れゲフン出てきたので、目の前の早贄状態は偽者もしくは抜け殻だと判明。ならこれ以上此処にいる必要は無いなって事で、分霊を更に私が抱え込む形で脱出したんだ。
スープ入りの水筒を抱えさせて飲める状態にしたら、ひたすら飲み続けていたから大人しいものだったよ。ほとんど動かなかったとも言えるから、脱出も楽だった。
なおその後、司令部が安全地帯として確保してあった場所まで移動して、私がインベントリにこれでもかと詰め込んできた食材を取り出し、料理が出来る人総動員でご飯を作り続けているという訳だ。
「本当に、これで、いいのか…………?」
「司令部ー。ゲートの状態ってどうなってます?」
「現在かなり規模を縮小し、風前の灯火と言った様子ですね。エネルギーの枯渇が原因と思われます」
エルルはとても頭が痛そうだったが、まぁこれなら大丈夫なんじゃないか? とりあえずこのままご飯を切らさず、全ての原因だろう魔族の王とその側近達をこのまま足止めし続けられるんなら。
それに、そろそろ時間的に連合軍が首都へ辿り着く。連合軍が辿り着いて攻撃を開始すれば、私達は東側の壁を力業で派手に突破して脱出すればいいんだし。
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