第2690話 73枚目:隠し部屋内部

 まぁでもエルルにかかればこんなもんよ。

 と心持ち胸を張って言いたい私は、それはもうあっさりと天井に取り付けられた、不自然極まりない扉の向こうへと入りこめていた。激戦の流れ弾も魔族側の警戒も完全にスルーだ。

 そして実際入り込んだ部屋の中は、うん、まぁ、大体分かっていたが、これでもかと魔法的な罠で埋め尽くされていた。いや罠と言うか、恐らく一部は壁にあった回路に繋がるのだろう力を吸い出す魔法陣なんだが。


「……真っ当な扱いは最初から期待していませんでしたが、ここまでとは思いませんでした」


 でも、冷静に考えれば、それはそうだな。それはそう。マイナーチェンジして細かいところが異なるとはいえ、他の種族と比べれば魔族同士というのは付き合いやすい。そして同じく研究を目的とするのであれば、それこそ、便利な道具の融通ぐらいはするだろう。

 部屋の大きさとしてはそこまででもない。小会議室程度だろうか。その中央にあるのがこの部屋のメインである、拘束と力の強制的な吸い出しを行う魔法陣だろう。そこに、私達が知っているより一回り大きく、私達が知っているより瘦せ細った、大神の分霊がいた。

 ……その魔法陣の中心に、細い柱のような大きさの推定杭で、蝶の標本か、モズの早贄のように、縫い付けられる形で。


「お嬢。あれは壊していい奴か?」

「……以前に見つけた物は、私の腕ぐらいの長さと太さの杭だったんですが。救出の意識を持って触れると無力化してくる罠がありましたね。そのものもかなり頑丈だった筈です」

「壊すのは非推奨なんだな」


 そうなるなぁ。

 うつぶせの形で床から1m程浮いたところに、床から生えた形の杭で縫い留められている大神の分霊は、ぐったりとして動かない。杭、というには長すぎるし尖った先が上を向いているが、一応杭としておくものが貫いているのは腹の真ん中のようだ。

 普通の生き物ならとっくにそこらじゅうが血塗れになっているだろうが、その辺りはやはり分霊という事か。生きている感じもしないがそういうグロい痕跡も無いので、人形っぽい。


「とりあえず、大神の加護でこの部屋の状態は外に伝えています。……ところでエルル、魔法罠の解除って出来ます?」

「………………。かなり難しい」

「そこまで長考して目を逸らすんなら出来ないでいいんですよエルル」


 まぁ竜族にとって罠の解除は鬼門どころじゃないからな。ましてより繊細な魔力操作が必要になる魔法罠となればなおさら。

 しかし、と、ウィスパーでカバーさんに言われるがまま部屋のあちこちを見て、撮影機能で部屋の中の様子を司令部に見せながら思うのは、本当にピクリともしない異界の大神の分霊だ。

 魔法罠を確認する都合上と、部屋に入った時に異界の大神の分霊以外は少しの光も逃さないような黒という魔族の力の色で塗り潰されて何もみえなかったという事から、今は魔視をほぼ切っている。だから、ほとんど通常視界と同様なのだが。


「……あれ、本当に分霊ですかね?」

「どういう事だ」

「だって分霊って事は、ほぼ非実体でしょう? まぁ改造して非実体でも縫い留められるようにしたとして、少なくともこんな近くに魔族以外の存在が来ているのですから、何か反応しても良さそうだと思うんですが」

「……。俺が今もある程度種族特性で隠れてるとしてもか?」

「流石に弱っている分霊だとしても、大神ですよ? 確かに他に比べようもない特殊能力ですけど、神まで誤魔化せるんです?」


 なるほど。という感じでエルルも頷いたので、やっぱりちょっと違和感だよな。もちろんゲートが揺れているせいと、回路が壊されて残った分で維持する為に余計に力を吸い出されてるからこの状態、っていう可能性はあるだろうけど。

 と言っても、ここまでとても活躍していた魔視も、これだけ魔族による罠と魔法的仕掛けと構造物があると、そちらの力に塗り潰されて何もみえない。だから今はほとんど魔視を働かせてないんだが。

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