第2689話 73枚目:突入方法

 攻撃する事しばらく。やはり大神の力とそれを流す回路の強度は別だったようで、壁の一部が突破できた、という報告があった。

 そして突破できたという事は壁に穴が開いたという事であり、新たな突入口が開いたという事だ。つまり部屋の中に踏み込み、戦闘を行える人数が増えるという事である。

 手加減しているとはいえ、全力支援されているサーニャ1人で拮抗を保っていた戦闘が、横から攻撃されればどうなるか。しかも壁を経由していた回路はゲートに繋がっている。


「ゲートの維持、新手への対処。もちろん大神の分霊とゲートの保護も必須ですし、回路の補修も出来ればしたいでしょうね。無理ですけど」


 状況と言うのは、一度転がり始めてしまえば止められない。一ヵ所だった壁の穴があっという間に2ヵ所になり3ヵ所になり、拡張されていく。扉の脇も削られて、広げられ始めたようだ。

 ゲートがある部屋は相応に大きいようだが、壁を全て無くしても天井が落ちる事は無いと司令部は城の強度を計算している。だからこそ、召喚者プレイヤー側に遠慮も容赦もありはしない。

 対応する方は、ようやくその苛立たしさの中に焦りが滲んできたらしい。本当にこちらを下に見て舐めてかかっているが、まぁそれは別にいいんだ。格下相手でも一切手を抜かないって方が厄介だから。


「ではエルル」

「……一応確認するが、激戦区だぞ?」

「だからこそじゃないですか」


 何のことかって言うと、もちろん鍵を持った私が天井の扉の向こうへ突入するって話だ。焦りが滲んできた、少なくとも外から見て分かる程度に隠せなくなってきたのなら、ここで畳みかけるべきだろう。

 とはいえ、正直に私が突入しても邪魔になるだけだし、絶対に最優先で妨害される。ましてその向かう先が推定異界の大神の分霊がいる場所ならなおさらだ。それこそゲートの維持を放り出してでも迎撃してくる。私ならそうする。

 だから、エルルなのだ。私が種族特性を可能な限り引っ込める事で、エルルの種族特性が優先されるようにする。そうすれば、エルルが単身で動くよりは劣るとはいえ、ほぼ世界最高の隠密能力が、私にも適用される。


「相手は空間に干渉する事が得意な魔族。その正当進化の方向に自己改造した種族の、一応は王と名乗っている存在ですよ。激戦区でその対応にいっぱいいっぱいになっている状態でも無ければ、その脇をすり抜けるなんて芸当は出来ないでしょう」

「だがな」

「それにエルルは『勇者』ですからね。やはり異界の存在にとっては恐ろしいかと。まだこの時代の神々は、異界の存在をモンスターぐらいしか知りませんし。被害者を怯えさせるのは、救出行動において大きな障害ですよね?」


 なので、私の同行は必須である。エルルだけの方が突入そのものは安全で確実なのは確かなんだが、異界の大神の分霊への対処を考えると私は必須なんだ。

 なおエルルは、それならお嬢じゃなくて他の召喚者でもいいんじゃないか、とも言った。のだが、異界の大神の分霊がこちらを認識しているかどうかが怪しい、という前提だと、やはり耐性は必要だという事になるんだよな。

 そして必要な耐性は主に神の力に対するものになるが、あの魔族達に干渉されている事を考えるとそれ以外もあり得る。それに、どちらにせよ分霊とはいえ大神と対峙する以上、私か「第一候補」のどちらがいいか、という二択になる。


「というか、私か「第一候補」という二択になった時に私を選んだのはエルルじゃないですか」

「御使族よりお嬢の方がまだ慣れてるから……というかほぼ選択の余地が無いだろうがその二択は」


 だろうなとは思ったが、そもそも大神の分霊が捕まってて救助しないといけないっていう状況が例外すぎるだけの話だしな。異世界とはいえ、大神っていうのはそんな気軽に触れ合えるものではない筈なんだが。

 まぁその辺も異世界間ギャップという事にしておこう。さてエルル、あんまりゴネてると他の召喚者プレイヤーがうっかり魔族側を全滅させかねないから、急ごうか。

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