第2688話 73枚目:部屋の構造

 鍵を持った状態でまずはゲートがある部屋の周囲を確認したが、こちらに鍵を使う為の扉は無かった。扉が見えるのは鍵を持っている本人だけなのが分かっているので、一緒に移動しているエルルが見えない扉が正解となる。

 まぁでも周りに無いという事は、と、エルルに鍵を渡して激戦区となっているゲートのある部屋を見てきてもらうと、入口の正面奥にゲートがあり、その真上、天井の奥の壁に接する辺の真ん中という明らかにおかしい位置に、さっき部屋を見た時は無かった筈の扉があったらしい。

 しかし天井。それもゲートの真上。ふむ?


「司令部、観測班を呼んで、ゲートの真上の天井を調べて下さい。奥の壁に接している部分の真ん中です。奥の壁自体にも何かあるかもしれません」

「分かりました。伝達します」

「お嬢?」

「主に魔力的な仕掛けが無いか調べてもらいます。あんな場所にあるんです。絶対何かゲートに繋がるものがあるでしょう。魔力的もしくは神の力的に」

「……あぁ、なるほど」


 そしてここまでの感じ、今も耳を澄ませるまでもなく相当な激戦が行われていると察せる戦闘音を響かせるこの国のトップが、異界の大神の分霊なんて大物を、権限を借りる程度で済ませる訳がない。絶対リソースも搾り取っているだろう。

 搾り取る事で自分達の消費が抑えられるのは当然、大神の分霊が弱って取り込みやすくなるところまで狙っている筈だ。それぐらいはやるだろう。でなきゃ見つかるあれこれがもう少しマシだった筈だ。

 まぁ私が魔視でみたら一発なのかもしれないが、種族特性があるからな。魔族側だって、竜族の皇女わたしという大物を見逃すことはしないだろう。それが隙になればいいが、たぶんそうはならないので止めておくべきだな。


「あぁ、それとお嬢」

「どうしました?」

「アレクサーニャが攻めきれないの、あれ一応生け捕りと言うか、連合軍が仕留めた方がいいっていうのを守ってるからだぞ」

「なるほど。……とはいえ、手加減しても苦戦するって時点で十分強いんですけどね。命を狙えば重篤なカウンターがあるかもしれませんし、現状維持で」

「了解」


 のろいとかを自分に仕込んでいるかも知れないからな。ここまで手を広げているんだ。技術自体は習得してるだろうし。実際、鍵にかかった鍵にそっち系が混ざってたみたいだし。

 そしてそうこうしている間に、仕事の早い司令部と観測班はゲートのある部屋を確認してくれたのだろう。全体連絡掲示板が更新された。それによれば。


「部屋の壁全体に魔力反応、はともかく、神の力の反応が回路状になっているのは絶対におかしいんですよね。しかも全てがゲートを終着点として、鍵を持って見えた扉の位置を発着点としているとか」

「……。壁全体にって事は、部屋の防御にも神の力を使ってるって事か? 異界で分霊とはいえ大神だろ?」

「そういう倫理が邪魔でしかないという思考と方向だから現状に至っているんですよ」


 ため息とともに言い切れば、頭が痛いとばかりにエルルは眉間にしわを寄せた。まぁ完全に敵地で戦闘中の場所に近いんだから、片手と視界を塞ぐ訳にはいかないな。眉間のしわを見ると伸ばしたくなるけど。

 とはいえ、神の力が部屋の防御力を上げる事に使われている。その可能性があるのなら、まずはその手段である回路をどうにかするべきだろう、と司令部及びベテラン勢は判断したようだ。

 何せ、明らかに部屋狙いかつ神の力を借りる攻撃が増えたからな。近くで待機して戦闘音を聞く限り、だが。


「利用されているとはいえ、力の流れに攻撃するんですから、分霊にも影響が出るとは思いますが……流石にこれは避けられませんからね」

「そもそも分霊だが大神ではあるんだろ。普通の神の力で妨害できるのか?」

「力そのものは大神ですが、それを特定の形にしているのは通常の技術ですし。形を崩して零れ出るようにすれば、少なくとも部屋の強度は落ちるでしょう」


 それに部屋の壁を経由してゲートに繋がってるのも間違いないんだ。まずは何より、ゲートを閉じないといけないしな。閉じる前に大神の分霊を向こうに返せればいいんだが、それは流石に無理そうだし。

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